ミラノデザインウィークの展示から紐解く、
アルカンターラがトップを走り続ける3つの理由

ミラノ・トリエンナーレで展示された、アルカンターラの素材を使ったアート作品。中国の秦風による「Infinity of Temple」(左)と、水墨画のような表現が美しい張春紅の「Fall」。

1972年にイタリアで創業し、イタリアを代表するブランドのひとつであるアルカンターラマセラティをはじめとする高級スポーツカーのシートから、マイクロソフトのキーボードにまで、さまざまなプロダクトの生地を手がけている。アルカンターラはなぜ一流ブランドから愛され続けているのか? 今年のミラノデザインウィークの3つの展示と合わせ、その理由を紐解きたい。

革新的な技術への、あくなき探求

アルカンターラは会社の名前でありブランドであり、商品(マテリアル)の名前でもある。滑らかで柔らかい肌触りが特徴のこのマテリアルは、高級車に採用されたことで一気にシェアを拡大。革新的な素材としてファッションブランドから家具、飛行機のシートなどさまざまなブランドに採用される存在になった。


2025年の春夏コレクションより。加工方法は何十通りにも及ぶ。

アルカンターラがさまざまな分野のクライアントに支持される理由のひとつが、クオリティの高さとテーラーメイドへのこだわりだ。生地そのもののクオリティだけでなく、加工の仕方がとにかく多種多様なのだ。プリーツ加工、ミリ単位の細かなドットを空けるパンチング加工から、エンボス加工、刺繍、熱によるプリント……。加工の組み合わせだけで何千通りにもなり、それだけで十分にオリジナリティのあるプロダクトをつくることができる。

2004年アルカンターラ社のCEOに就任し、06年より同社会長を兼務するアンドレア・ボラーニョ。

会長のアンドレア・ボラーニョはこう言う。「われわれはクライアントの要望に応えるだけでなく、素材から加工の方法まで、何パターンもの可能性を積極的に提案します。そのため、クライアントのニーズを先回りし、素材だけでなく加工技術の開発を日々行っているのです」。イタリアの職人技らしい、細部へのこだわりと高度な技術力。さらにクライアントひとりひとりに寄り添い、デザインを考え抜くテーラーメイド。その姿勢はイタリアのものづくりの真髄とも言えるだろう。

ミラノデザインウィークの期間中、トルーナ通りにあるスペースをリニューアルした。

ミラノデザインウィークでお披露目された、アルカンターラとアーキプロダクツによるコラボレーションの空間は、そんなアルカンターラの高い技術力を体感できる空間となっていた。ミラノの建築事務所、スタジオペペによるデザインで、テーマは「水」。

夏をイメージしたカラーは、海の深い青からプールの青まで、あらゆる色合いの水の陰影を想起させる。

壁から天井にまでアルカンターラの生地をふんだんに使った空間で「水」を表現。生地そのものの触り心地や鮮やかな色合いだけでなく、細かいドットや箔、プリーツ加工など、アルカンターラの技術によって、移り変わる水の色合いや表情が表現されていた。

2009年にカーボンニュートラル認定を取得

アルカンターラが支持される理由は、技術力だけではなく、サステナビリティへの取り組みにもある。いまこそ企業が環境配慮をするのは当たり前となっているが、アルカンターラは2009年にテュフズード(TÜV SÜD)のカーボンニュートラル認定を、イタリアで初めて、さらに世界で初めて取得している(テュフズードとは化学産業におけるカーボンニュートラルに関する認定で、このカーボンニュートラル認定はひじょうに厳しいとされている)。「持続可能性はアルカンターラにとって重要な要素。リーマンショック後にいち早く取り組みをはじめました。その後毎年、サステナビリティ・レポートを発信して着実にその実績を積んできたのです」とボラーニョは言う。

ADIデザイン・ミュージアムで開催された特別展示「Driving into endless customizations」。巨大なダッシュボード、ドア、シートはすべてアルカンターラの生地でつくられており、まるで自分が小人になったような気分に。

アルカンターラでは、原材料を含む製造工程の開始から製品が使用され廃棄されるまでに引き起こされる温室効果ガスの排出量を測定している。さらにテュフズードに認証されたオフセットプロジェクトからカーボンクレジットを取得することで残存排出量を相殺し、排出量を削減することにも取り組んでいる。カーボン・オフセットが最終的な解決策ではないが、カーボン・クレジットは気候変動との闘いを加速させ、世界の排出量を確実に削減させるための有効な手段である。また、リサイクル・ポリエステルの使用量の増加にも取り組んでいる。バイオベースポリマーと使用済み製品認証を受けたリサイクルポリエステルの使用を増やすことで、化石燃料由来のポリマーの消費を削減しようと試みているのだ。リサイクル・ポリエステルは、廃棄物を再利用するため、プラスチックが焼却されることや海に流失することを防ぐ狙いもある。

多くの部品から成り立つクルマにとって、できるだけ環境負荷のないものを選ぶことは挑戦とも言える。その点アルカンターラはクルマ業界にとって安心できるパートナーだ。Auto&Designが主催するカーデザイン・アワードのパートナーをしているアルカンターラは、ミラノデザインウィークでも、ADIデザイン・ミュージアム内に設けられた「Driving into endless customizations」と題した特別展示を開催。同時に会場でトークイベント行った。

シートの無限のカラーバリエーションと加工技術によって、自分だけの特別な一台が完成する。

自動運転を実感する機会も増え、いまやクルマは単なる移動手段ではなく、家族や友人、大切な人と過ごす特別な空間となりつつある。車内のインテリアとしての快適性や素材の使い方、さまざまなトピックとともに最新のトレンドとクルマの未来について議論する場となった。

アートとのコラボレーションが、新たな技術のヒントに

最後に紹介したいのが、さまざまな分野とのコラボレーションだ。高級車だけでなく多くのプロダクトに使われ続けるアルカンターラは、ブランドの設立当時からアートやファッション、デザインの分野でのコラボレーションを行ってきた。とくにアートの分野では、ヴィクトリア&アルバート博物館、上海の余徳耀美術館、東京の森美術館で展示の実績もある。

イタリアを代表するアーティスト、アルベルト・ビアージの作品「Torsione Sovrapposta」。

ミラノ・トリエンナーレで開催されていた展示「Generating Visions. Alcantara in the Arts」は、今までのアーカイブを振り返る、集大成とも言える展示だった。現代美術とトリエンナーレのパブリック・プログラムのキュレーターであるダミアーノ・グッリが監修を務め、7人の作品を展開。イタリアに限らず中国など世界各地のクリエイターによる映像やサウンドインスタレーションが展示されていた。光の当たり方で見え方が変わるアルカンターラの特徴を映像で表現したユーリ・アンカラーニのビデオ 「The Future Landscape」や、アルカンターラのキャンバスに墨で細密な線画を描いた 張春紅の「Fall」など、アーティストがアルカンターラの魅力を解釈することは、新たな技術を追求する上でも大きなヒントになるに違いない。

ロレンツォ・ヴィットゥーリは、アルカンターラでの製造工程を撮影した画像の一部を拡大し、多様な形と色の彫刻作品として表現。

イタリアの職人らしい細部へのこだわりと、テーラーメイド。そしていまや欠かすことができないサステナビリティへの配慮と、幅広い分野でのコラボレーション。アルカンターラが革新を続ける理由が、ミラノデザインウィークの展示に結実していた。(文/井上倫子)End