デザインの未来がベルリンに集結!
iF Design Award 2025授賞式レポート

 

ベルリンの中心地、ミッテにあるフリードリヒシュタット・パラスト(Friedrichstadt-Palast)で開催された。

歴史、文化、政治、創造性が交差する街・ベルリンーー長く陰鬱な冬を越し、ようやく春の兆しが訪れた街では、公園や広場で思い思いに憩いの時間を過ごす市民の姿があった。街ですれ違う人々の表情は穏やかで、誰しもが春の到来を喜んでいるかのように思えた。この地で毎年この時期に開催されるのが「iFデザインアワード」の授賞式だ。ドイツのレッドドットデザイン賞、アメリカのIDEA賞と並び、世界三大デザイン賞のひとつと称される。今年も66の国と地域から約11,000件の作品が集まり、最高の栄誉を象徴する「iFゴールドアワード」に75件が選出された。そのうち日本企業、日本人の受賞は12件。2025429日、盛大な歓声とともに受賞者たちはステージに迎え入れられた。

約2,000人のゲストが世界50カ国から集まり、受賞者たちを祝福した。

このiFデザインアワードを主催する「iF International Forum Design」のCEO・ウーヴェ・クレメリング(Uwe Cremering)は、ステージ上で今年1年間のデザイン界における成果と課題を振り返りつつ、iFデザインアワードへの熱い想いを語った。それに応えるかのように会場内は熱気に包まれた。

ウーヴェによると、iFデザインアワードでは本年度から「持続可能性(sustainabilityを審査の中核基準のひとつに据え、エネルギー消費やサプライチェーンの管理、製品のライフサイクル、リサイクル性、素材の選定などの観点から審査が行われたとした。この持続可能性は82あるカテゴリーの評価基準の重要な位置を占めており、今後もiFデザインアワードではこの持続可能性をデザイン価値の評価に取り入れていくことを宣言した。

「iF International Forum Design」のCEO・ウーヴェ・クレメリング(Uwe Cremering)

さらに、ウーヴェは「iFデザインアカデミー」の設立を発表した。このアカデミーはデザイン分野のプロフェッショナルのスキルアップを目的としており、国際的に認められたデザインリーダーによってプログラムされたコースは、リーダーシップ、戦略能力、ビジネス環境に焦点を当てている。スキル取得だけではなく、世界的なデザインコミュニティに参加できる貴重な機会となるだろう(今年の9月に開校予定)

日本のデザインで特に注目を浴びた作品をいくつか紹介しよう。まず、プロダクト部門から2作品。

ひとつはインテリア・エクステリア・DIY商材を販売する友安製作所による掃除道具シリーズ「BRUSHUP」。鉄と木という耐久性と持続可能性を備えた素材を使用したホウキとチリトリからなる6つのアイテムは、どんなインテリアにも自然と馴染むスタイリッシュなデザイン。「散らかったものを“掃き清める”ことで、創造性も“磨き上げる”こと」を目指したという。伝統的な製造技術と、日常使いおける十分な耐久性、そして洗練さ和の美しさが評価された。

「BRUSHUP」/友安製作所

ふたつ目は、建築家・沖津雄司による「FOCUS」。薄くて軽いサイズ違いのレンズで構成されたモビールのようなシャンデリアは、自然光や室内の光を集めて反射し、動きながら空間に美しい光を届ける。「何世紀も前のレンズ技術を使って、電子機器なしに自然光を効果的に活用したデザインに感動した」と審査員によるコメントも。「すべての創作は隠れた感情や日常の瞬間の探求である」という沖津のユニークな哲学も紹介された。

「FOCUS」/沖津雄司

そのほか、建築プロジェクトとして、2作品が受賞した。

東京学芸大学のEXPG棟「学ぶ、学び舎」は、デジタル技術を用いて建築産業の変革を目指すデザインスタジオ「VUILD」によって設計されたオープンラボ、教育スペース、プレイエリアを兼ね備えた施設。デジタル技術を駆使してつくられた波打つような独特な造形に会場からは歓声が上がった。木材とコンクリートといった馴染みのある素材を融合させて、新たな発見や考察を促す空間をつくりだした点が評価された。

「World-Food Waste Teahouse」/三菱地所設計

また、三菱地所設計が手がけた茶室パビリオン「World-Food Waste Teahouse」は、食品廃棄物を素材として用いたインスタレーションで、2023年にはイタリア・ヴェネツィアにて「ベネチ庵」、アラブ首長国連邦・ドバイにて「アラビ庵」が完成、世界各地に配置ることを目的としている。「フードロスについて考えるきっかけを与えられる非常に印象的なデザイン」という審査員のコメントとともに紹介された。

NEC避難行動支援サービス」/NEC

さらに、サービスデザインの分野として、自治体と住民が情報を連携し、非常時に住民同士の安否確認や避難を支援するための「NEC避難行動支援サービス」が選ばれた。住民と救助者がアプリ上でリアルタイムで情報を共有できるようにする仕組みとなっている。世界でも自然災害が多い国として知られる日本ならではの画期的なシステムは、「優れたデザインであるだけでなく、人命を救う」という点において評価された。

「NEC避難行動支援サービス」/NEC

今回の授賞式でひときわ大きな歓声に包まれた瞬間があった。それは「iFデザイン生涯功労賞(iF Design Lifetime Achievement Award)」に選ばれた建築家のノーマン・フォスターが紹介され、ステージに登場した瞬間だった。ノーマン・フォスターは、授賞式の冒頭で触れられたサスティナビリティの重要性について触れ、1990年代に自身が主導し、いまや「ゼロカーボン建築」の象徴となっている「ドイツ連邦議会議事堂の再建プロジェクト」について語り、歴史的価値を残しつつ最新の環境技術を取り入れた例を紹介した。

そして、世界初の人力飛行による完全飛行を達成した飛行機「ゴッサマー・コンドル」の設計者・ポール・マクレディがクレーマー賞受賞時に語った「私を称賛するのではなく、本当に称賛されるべきは(賞を設けた)クレーマ氏だ」という言葉を引用し、クレーマー賞という動機があったからこそマクレディにより良いものを生み出そうという意欲が湧いたというエピソードに触れ、「iFデザインアワードは多くのデザイナーにとって、より良いデザインを追求するための“きっかけ”となるだろう」と述べ、iFデザインアワードの役割を評価した。

現代建築の巨匠・ノーマン・フォスター(Norman Foster)。Apple本社「Apple park」などの設計で知られる。

気候変動と環境破壊、経済的格差と貧困、人口問題と都市化、食糧不足といったグローバルな課題から、日常生活のささいなことに至るまで、人々はさまざまな問題を抱えている。課題解決のためあらゆるニーズに向き合い、新しいアイデアや価値、心地良い体験を生み出すものとして、いまデザインの力が広く求められている。生活を豊かにし、世界をより良くするために、日々創造と向き合うなかで彼ら、彼女らが見据えるのは人々の「未来」だ。熱気に包まれたベルリンの会場で、その未来を見ることができた。5月上旬、iFデザインアワード2026に向けた応募要項が発表された。デザインはまたひとつ次なるフェーズへーー新たなる時代の幕が静かに開こうとしている。