マ・ヤンソン/MAD Architectsが設計を手がけた
ロッテルダムの美術館「Fenix」

Photo by Hufton+Crow

馬岩松(マ・ヤンソン)が率いる建築設計事務所 MAD Architectsが設計を担当した、オランダ・ロッテルダムの美術館「Fenix」が2025年5月にオープン。同事務所がヨーロッパで初めて手がけた建築となった。

Photo by 存在建筑

かつてはアメリカ大陸を目指す人々の重要な出発地であったロッテルダム。現在では170以上の国と地域から多様な人々が移り住み、ヨーロッパを代表する移民都市を形成している。

今回の計画は、ロッテルダム市による文化復興プロジェクトの一環として、同市を流れる河川に面した100年以上の歴史をもつ倉庫「Fenix」を美術館に改修。移住民の過去と現在を結ぶランドマークに生まれ変わらせた、移民都市・ロッテルダムの歴史を称えるプロジェクトである。

Photo by 存在建筑

Photo by Hufton+Crow

建物は、倉庫の堅牢な構造をそのまま残しつつ、自然の光が差し込むように中央の屋根を開放した。中心には、全長550m、高さ30m、17mの片持ち構造をもつ、渦を巻くような巨大な螺旋階段が設置された。

階段は、CNC加工により成形・研磨されたシルバーのステンレス鋼で覆われ、鏡のような輝きを放つ。街行く人々や港の風景、移りゆく空模様が映り込むことで、建物そのものに生命感とダイナミズムを与えている。訪れた人は、複雑に絡み合う階段をさまざまな人と行き交いながら、それぞれのルートを模索して、屋上展望台に登ってゆく。

Photo by Hufton+Crow

Photo by 存在建筑

Photo by Iwan Baan

Photo by 存在建筑

館内は、歴史的に重要なコレクションをはじめ、世界の著名なアーティストや若手作家による作品を展示。建物東側1階の「シビックスクエア」は、食のイベント、文化交流、パフォーマンス、市民向けプログラムなど、自由な活動が行える場として開放されている。

Photo by Hufton+Crow

また、6,750平米を誇る屋上は緑化されており、断熱性を高めるとともに、エネルギー消費量を大幅に削減。植栽により保水性に優れ、自然な蒸発散と水の循環が行われる。

Photo by Iwan Baan

Photo by Hufton+Crow

マ・ヤンソンはこのプロジェクトについて、「移住とは、個人や家族の移動を意味します。しかし、もっと広い視野でみると、人口全体の動きや流れになります。世界中の政治、地理、文化、芸術は、こうした移住によって形成され、変化していくのです」とコメント。さらに、「この美術館では、過去を悼み、苦難の歴史を紹介するだけでなく、現在そして未来を生きる人々が前を向くために、希望や勇気を伝えることが重要なのです」と語っている。End