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5時間前

深津貴之がサム・アルトマンをモチーフにSora2で生成した映像より抜粋。
2025年秋、日本政府に対してのAIにまつわる政策の提言、デジタル庁との会談、日立製作所ほか国内企業との連携発表などの目的でオープンAIのサム・アルトマンCEOが来日。その合間を縫って、国内アーティストと交流の時間を持った。東京・西麻布のギャラリースペースでは、メディアアーティスト/プログラマーの真鍋大度、アーティストの草野絵美と鼎談。前日にお披露目されたオープンAIによる新たな動画生成AI「Sora2」も題材にして、AI時代のクリエイションについて意見交換を行った。
今回はパート1でアルトマンとの対話の一部を振り返り、パート2では深津貴之が草野絵美をゲストに迎えて対談する。
※本記事は「AXIS」235号 連載「深津貴之の『行ったり来たり』記」からの転載です。

サム・アルトマン/1985年生まれ。アメリカ・シカゴ出身。起業家・投資家で、スタートアップ育成機関Y Combinatorの元代表として知られる。2015年にOpenAIを共同設立し、革新的な生成AIの開発を牽引。テクノロジーと社会の未来を見据えた発言・活動でも注目されている。日本へは公私ともに頻繁に訪れている。
生成AIの現場ではスタートアップからメガテック企業までがしのぎを削るなか、その火点け役となったオープンAIは次々と新たなバージョンをリリース。これまで人工知能を身近に感じていなかった一般層に対しても、急速に存在感を高めている。
そのトップが、日本のクリエイターと何を語ったのか。真鍋は、アルトマンに「生成結果のリアルタイム性を高めてほしい」と実装における立場からリクエスト。一方、AIなどの新技術を取り入れ、ノスタルジア、ポップカルチャー、集合的記憶を主題に作品を制作する草野は、AIが創作や人々の意識に与える影響について対話した。印象的だったのは、彼女がAIを「宇宙人のような隣人」にたとえた次のくだりだ。
草野 AI の未来を定義するなら、それは宇宙人との共存です。ユヴァル・ノア・ハラリが言ったように、AIとは宇宙人の知性であると言えるでしょう。AIは人間の守護者や仲間になることができると同時に、敵のような存在にもなり得る。AIの未来には、非常に多くの可能性があると思います。
アルトマン 全く同感です。しかし、この出会いは想像するほど奇妙な出来事ではないとも言えます。たった3年前、ChatGPTはまだ世の中に存在していなかった。私たち人間は驚くほど順応性が高く、すでにエイリアンの知性と共存しており、生活もこれまでと同じように続いています。ですから、これから世界は大きく変わるでしょうが、人間自身の経験は、長い間ほとんど変わらないでしょう。そして私たちはエイリアンと共存したいと思うようになるはずです。AIが本当に親切でフレンドリーなエイリアンで、私たちのために多くのことをしてくれるからです。

真鍋大度、草野絵美、そしてサム・アルトマンのトークセッションは全編英語で行われた。
エイリアンという言葉にユーモラスな響きがあるため、緊張感が漂っていた会場の空気は和んだが、アルトマンの表情はいたって真剣だったのが興味深い。続いて会場との質疑応答があった。
AXIS あなたの一連の発言から、AI時代における「倫理や善性」「人はどう生きるべきか」といった事柄を熟慮することを使命感にとらえていると感じます。特に後者について、デザイン誌の立場としては、ますます「人間がやると美しいこと」「人間がやったことで価値のあるもの」が重要視されていく予感があります。それは、演劇やスポーツ、陶芸や詩、家庭料理、子どもがある年代においてのみ描ける絵など、人によってさまざまでしょう。人はどうAIと生きるべきか、改めてあなたのご意見をうかがえますか。また、今日のセッションが人間同士の対面で行われていることの意義も併せて伺います。
アルトマン (少し考えてから)人間には、他人のことを気遣う気持ちが心の奥深くに組み込まれていると思います。AI が人間よりも優れたことができることはたくさんありますが、私たちはそれを気にしません。
例えば、私の子ども時代にIBM のスーパーコンピュータが当時のチェス世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフを破りました。この話を父としたとき、彼が「チェスは終わった。二度とチェスに興味を持つ人間はいないだろう」と言ったのを覚えています。しかし、実際にはチェスはこれまで以上に人気が高まっています。
機械がこれらの驚くべき偉業を達成できるという事実を、私たちはそれほど気にしていないようです。ふたつのAIがチェスで対戦するのを見たいと思う人はほとんどいません。人々が本当に気にかけるのは「物語の背後にある人間」です。私たちはほかの人たちにとても注目しているのです。
AI がこの種の知的作業をさらに行えるようになると、人々はほかの人がすること、人と人のエクスペリエンスに重きを置くようになるでしょう。したがって、人々は物語の主人公であり続けるのではないかと思います。デザインの観点から言えば、どうして対面のインターフェースが優れているのかという問いの答えです。ネットを通じてビデオ会議をするだけでは、実際に会うのと同じ楽しみは得られないでしょう。今日この会場の雰囲気や周りにいるクリエイターたちから、もともと自分がどのような地点にいたのかを思い出します。

ChatGPTのUIを等身大に具現化した、鏡型ディスプレイによるインスタレーション(松田将英の作品)。鏡面には来場者自身が映り込み、AIとの対話が自分の延長として立ち上がる感覚を提示する。
続けて、ジョニー・アイブと開発中と言われる新たなハードウェアについて話題が及んだ。
草野美木(絵美の妹で編集者) アップルが1987年に公開した「ヒューマンインターフェイスガイドライン」では、製品がユーザーにどのような感情を与え、どのような関係を築くべきかを強調しています。大手テクノロジー企業は、さまざまなアプローチを取ってきました。ユーザーのために何かをすることに重点を置く企業もあれば、ユーザーに権限を与えることに重点を置く企業もあります。ユーザーと開発者にとってのオープンAI の製品哲学は何でしょうか。そしてハードウェアへの移行にともない、それがどのように進化すると考えていますか?
アルトマン 私たちは AI に「あなたの健康を本当に気にかけてくれる友人のように、あなたを扱ってほしい」と考えていました。困難な状況でChatGPT がどのように対応すべきかを決めるとき、「あなたのことを本当に気にかけている人が、この瞬間にあなたに何をアドバイスするか」を考えるようにしています。ほかの種類のテクノロジーとは異なり、ChatGPTが人々に本当に好まれる理由のひとつは、AIがあなたを助けようとしていると感じられることです。広告をクリックさせようとしたり、ゲーム内での購入を促したりするのとは違います。
オープンAIがハードウェア面で何かを出荷できるようになるまでには、難しさもあってまだ時間がかかります。私はスマホとパソコンが大好きです。素晴らしいデバイスだと思いますが、それらのガジェットを使用していると、ラスベガスの大通りを裸で歩いているように感じます。気が散ってうるさく、煩わしく混沌としています。
私たちがつくろうとしているのは、美しい静かな湖畔のキャビンにある椅子に腰掛けているような体験です。とても穏やかで、背景に消えているが必要なことを行い、いつ人の邪魔をしてよいのか、あるいはしてはいけないのかという状況をAIが理解している。最低限の操作で常に実行できるため、非常に役立つ装置です。そして、私たちにはそのような新しい種類のデバイスを構築するチャンスがあると考えています。(パート2へと続く)![]()












