独自の信念のもとに豊かな空間を紡ぎ出す
小泉 創のデザインを紐解く

「So Koizumi solo exihibition」MATOYA(2025)。新作家具コレクション「As」の展示風景。Photo by SO KOIZUMI DESIGN

小泉 創は、空間デザインを軸に活動するデザイナー。2024年末に日本で開催された初個展を目にして以来、筆者は彼の動向を追ってきた。独自の信念に基づいて紡ぎ出される空間の豊かさに、大きな魅力を感じているからだ。2025年11月には、愛知県岡崎市のギャラリーMATOYAでの個展で新作「As」を発表し、それを今年4月のアルコヴァ・ミラノでも展示する。これまでのプロジェクトを振り返りながら、デザインへの向き合い方について聞いた。

「SEVEN」(2022)。テンセグリティ構造を取り入れた風鈴。コンセプトを形に落とし込むまでに約2年の歳月を要した。その後、富山のマッチングコンペに参加して、佐野政製作所と共創して製作した。Film by SO KOIZUMI DESIGN

ピーター・ズントーの建築が出発点となった

小泉がデザインに興味をもったきっかけは、17歳のときに訪れたドイツにある「ブラザー・クラウス野外礼拝堂」を体感したことだった。畑の中にぽつんと佇むその小さな建物は、丸太を組んで外側にコンクリートを流し込み、丸太を焼き払うことで内部空間が生み出されている。建築家のピーター・ズントー設計のもと、村人たちの手によって建てられた。

素朴で狭小の建築空間だが、「包み込まれるような安堵感と同時に、高揚する気持ちを覚えました」と小泉は振り返って話す。この体験から空間デザインに興味を抱き、現在の活動の原点ともなった。

「Polysemy」(2023)。作品名は、多義性を意味する。置き方を変えることで、本棚やサイドテーブルなど、多様な用途に活用できる。受注生産販売。製作:北川陽史 Photos by SO KOIZUMI DESIGN

高校卒業後、多摩美術大学環境デザイン学科に進学。空間デザイン、インスタレーション作品、舞台設計などに取り組んだ。3年次には大学の交換留学制度を利用して、フィンランドのアアルト大学へ約1年間留学。ファニチャー科で家具をはじめ、テキスタイルや陶芸も学び、大学内の工房で制作した椅子をストックホルム国際家具見本市に出展する機会も得た。またこの時期、余暇を利用して、コルビュジエやアアルト、ズントーといったヨーロッパ各地の建築を見て回った経験が、現在の小泉に大きな影響を与えている。

「Fossilized Future」(2024)。2024年のアルコヴァ・ミラノでの展示風景。事務所の近くでナラ枯れした伐採木とその周囲の土、コーヒーかすや野菜くずといった現代の暮らしから出たものを型枠に入れて固めて、化石を発掘するかのようにチェーンソーで切り出して完成させたスツール。Photos by Yuta Sawamura

ピュアな思いを原動力に制作

小泉は2021年に自身の事務所SO KOIZUMI DESIGNを設立。最初は知人の紹介による空間デザインの仕事が中心で、それと並行して自主プロジェクトにも取り組んだ。

自主プロジェクトでは、日常のなかで興味を引かれた事柄をヒントに創作へと向かう。展示での発表を前提にせず、ただ「つくりたい」というピュアな思いが原動力になっている。例えば、「Fossilized Future」は、事務所設立直後に訪れたベルリンでの体験を起点に生まれた。現地では、デイヴィッド・チッパーフィールドが改修した「新博物館」を訪れて過去と現代が共存する空間を体験したことや、街中では戦争にまつわる展示やイベントが日常的に行われており、その光景にカルチャーショックを受けたという。

過去の出来事を学び、その記憶を未来へと継承しようとする人々の姿勢に触れるなかで、「昔」と「今」をつなぐものとは何かと考えるようになり、やがて「化石」というテーマにたどり着いた。小泉は、「一万年後に発見される“未来”を想像したとき、一万年後の視点から現在はどのように映るだろうかと考えました」と作品への思いを語る。

そして、着想から約3年の歳月を経て、「化石」をテーマにした家具のオブジェクトを4点制作。初めてどこかで発表しようと思い立ち、2024年4月にサイトスペシフィックな場を生かした展示が特徴のアルコヴァ・ミラノで展示。そこで他のデザイナー、ギャラリスト、ディレクターなどとの出会いもあり、小泉にとって世界が少しずつ広がっていくきっかけとなった。

「So Koizumi Solo Exhibition」(2024)。東京・台東区千束にあるギャラリー「es quart」で開催した初個展の会場風景。Film and Photo by Yuichiro Kawabata

「Fossilized Future」の制作過程で生まれた破片も床に並べて、空間に流れを生み出した。右の「Urut」は、アアルト留学中に訪れた教会でパイプオルガンを見た体験からインスパイアを受けて制作した燭台。

初個展での出会いからプロジェクトに発展

ミラノから帰国後、日本でも作品を発表することを考え、ギャラリーを探すなかで東京・台東区千束にある「es quart」を知った。本展では、アルコヴァ・ミラノで発表した「Fossilized Future」のほか、マルチファンクショナルな家具「Polysemy」、風鈴「SEVEN」、新作燭台「Urut」を用いて空間を構成し、小泉の思考と世界観を深く伝える機会となった。

デザイン展がたびたび開かれるような立地でなかったにもかかわらず、会場には実に多様な人が足を運んだ。「30分から1時間、なかには2時間近く滞在される方もいて、ひとりひとりとじっくり濃密な対話ができました」と小泉は振り返る。この展示での出会いをきっかけにさまざまなプロジェクトへとつながった、転機となる出来事となった。

「Presence」クッポグラフィー高輪スタジオ(2025)。円柱の塊から分割した形状で、自然に立ち現れたような曲線が豊かな表情を生んでいる。コンクリート(床)とステンレス(家具)の組み合わせは、一見無機質に感じるかもしれないが、穏やかで温かみのある、心地いい空間が実現している。製作:北川陽史 Photo by SO KOIZUMI DESIGN

「Resonique」丹青社(2025)。写真では細身で華奢な印象を受けるかもしれないが、実際には大胆かつ力強い造形で、十分な強度と実用性を兼ね備えている。管楽器のバルブをモチーフに取り入れ、細部の表現にもこだわったという。製作:丹青社、菊川工業 Photos by SO KOIZUMI DESIGN

「es quart」での日本での初個展の出会いを契機に生まれたプロジェクトのひとつが、ニュウマン高輪内にあるクッポグラフィー高輪スタジオのために制作した家具「Presence」だ。狭小ながらも、やわらかな自然光が差し込み、コンクリートの床とステンレスの家具の色調が美しく調和する空間が実現。クッポグラフィー代表の久保真人や空間設計を手がけた a.d.pの坂田裕貴と、コンセプト段階から丁寧な対話を重ね制作を進めたという。

そして、もうひとつが、丹青社の新入社員研修の一環である「人づくりプロジェクト2025」だ。小泉の初個展を訪れたデザイナーの狩野佑真の声がけによって参加した。小泉のチームは、自身とメンバーが興味を惹かれたものとして声が上がった「管楽器」と「はしご」をテーマに脚立「Resonique」を制作した。

2024年に愛知県のギャラリーMATOYAにて開催された、陶芸作家の大野藍の個展「Passage」の展示空間と什器を手がけた。窓からの光を受けて作品の魅力が際立つように什器をデザイン。一日の光の移ろいを感じながら、作品と向き合う時間をもたらしてくれる。Photo by SO KOIZUMI DESIGN

「唯一無二の形」を徹底して追求

「Fossilized Future」「Presence」「Resonique」の一連の発表を筆者が追うなかで、空間の豊かさはもとより、プロダクトの力強い造形にも目を引かれた。その点について小泉に尋ねると、「造形にはかなり注力している」との答えが返ってきた。

「デザインに向き合うなかで、僕が重視しているのは4つの要素です。個人の考えや思想をもち、社会に個人としての態度を示すこと、既存のものを再解釈して本質的な魅力を引き出すこと、もの・環境・時間・人との関係を丁寧に紡ぐこと、そして、造形です。造形については、唯一無二の形を徹底して追求します。特に自主プロジェクトにおいては、新しい造形の可能性を探る側面もあるため、コンセプトを形に落とし込むまでに数年を要することもあります」と言う。昨今のデザイン界では、小泉のような造形に情熱を注ぐ存在は少ないため、頼もしく感じられる。

「As」(2025)。縄文時代に木の枝と石をアスファルトで接着して矢尻をつくっていたことに着目。アスファルトを「異素材同士を媒介する存在」として捉え、家具の新たな表現の可能性を探った。これも構想から約3年の歳月を経て完成に至った。アスファルトを含めた一部の素材は小泉自身が製作している。Photos by SO KOIZUMI DESIGN

もの・環境・時間・人との関係を丁寧に紡ぐ

小泉が重視するもうひとつの要素、「個人の考えや思想をもち、社会に個人としての態度を示すこと」は、決してエゴに偏った考えではない。独自の信念を軸にしながらも、「もの・環境・時間・人との関係を丁寧に紡ぐこと」を大切にする。その姿勢は、昨秋の展示からも垣間見える。小泉は東京の喧騒を離れて、あえて愛知県岡崎市のギャラリーMATOYAで新作発表の個展「So Koizumi solo exhibition」を開いた。

MATOYAとの縁は、フィンランド留学中に陶芸制作をサポートしてくれた陶芸作家の大野 藍との出会いに始まり、その後、同ギャラリーの什器制作を手がけるなどして店主・的山篤史との親交を深めていった。人とのつながりや自身の思考を最大限に表現できる空間を思い描いたとき、強く心を惹かれたのがMATOYAだったという。実際に、自然光が差し込む穏やかで豊かなギャラリー空間に小泉の家具が静かに溶け込み、的山と小泉の対話から深い信頼関係もうかがえた。

「As」(2025)。金属、石、樹脂などの異素材をアスファルトによって結合させ、スツールやサイドテーブル、照明などの家具コレクションの作品を制作。MATOYAの窓からの彩光によって、各々の素材の美しさが引き立つ。Photos by MATOYA

MATOYAでの個展は、アルコヴァ・ミラノ出展を見据えた重要なステップでもあった。まず日本で発表し、その様子をSNSで発信することで、特に海外での認知拡大を狙ったのである。実際、SNS上では海外からの反応も上々で、大きな足がかりとなった。そして、先ごろ、4月開催のアルコヴァへの出展が正式に決定。ミラノデザインウィークを訪れる方は、プロダクト単体ではなく、小泉の空間デザイン、世界観を体感し味わうことをおすすめしたい。

小泉はクライアントワークとして、今後も商業空間のデザインに携わっていきたいと抱負を語る一方で、展示の会場構成やショーの舞台空間など、短期間で立ち現れ、儚く消えていく空間にも強い魅力を感じているという。期待の新星の今後の歩みも、引き続き見守っていきたい。End

小泉 創(こいずみ・そう)/1990年東京都生まれ。2021年、東京にSO KOIZUMI DESIGN 設立。空間や家具など多岐にわたる領域のデザインを手がけるなかで、自身の思考や実験的アプローチから生まれる作品を定期的に発表している。2024年イタリアのアルコヴァ・ミラノ出展、東京・台東区千束のes quartにてSo Koizumi Solo Exhibition、愛知県岡崎市のMATOYAにてSo Koizumi solo exhibitionを開催した。