アンビエンテ2026、見本市は「売買の場」から「マッチメイキングの場」へ 
総責任者ユリア・ウーレックインタビュー

アンビエンテの今年のトレンド「Trend 26+」 ©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Pietro Sutera

消費者向けプロダクトの展示会としては世界最大規模の見本市「アンビエンテ」は、フランクフルトで毎年開催される。2026年は14万人の来場者が世界中から訪れた。コロナ禍を経て2021年に総責任者に就任したメッセ・フランクフルトのユリア・ウーレックに、時代の変化を踏まえて話を聞いた。

ユリア・ウーレック/メッセ・フランクフルト消費財見本市総責任者。大学でジャーナリズム、政治学、文学を専攻。2008年メッセ・フランクフルト入社。広報担当を経験後、2011年に消費財見本市のマーケティング・コミュニケーション部門ディレクター、2017年より戦略開発を担当。2021年より現職。 ©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Pietro Sutera

― 4年前からアンビエンテに加えて、クリスマスワールド、クリエイティブワールドを同時開催することになりました。その意図と成果は?

コロナ・パンデミックは世界を大きく変えました。貿易も製造のあり方も変化し、バイヤーと生産者のやりとりはデジタル化しています。対面で会うことの重要性は変わりませんが、バイヤーも生産者も「どこにでも行く必要」はなくなりました。時間をかけて、「どこへ行けば、行く価値があるのか」を考えるようになったのです。

また、バイヤーや個人商店が減っていくことも私たちは実感していましたし、産業側では合併が進みました。市場が大きく変化していることは以前から分かっていましたが、コロナがその流れに拍車をかけたのです。
バイヤーの数が減った今、見本市をこの会場に集約して開催する必要がありました。アンビエンテ、クリスマスワールド、クリエイティブワールドの同時開催が4年目に入ったいま、3つをひとつに集約したのは良い決断だったと思います。生産側もバイヤーも、国際的で強固なプラットフォームができたことを喜んでいます。幅も深みもあり、“ひとつの場所で”すべてを一度に見て買い付けができるようになったのですから。

バイヤーのニーズも変わってきました。家庭用の食器を買うだけでなく、ギフトアイテムも探せます。
2020年以前と単純に比べることはできませんが、出展者・来場者の双方から、世界中からの問い合わせがコンスタントに届いています。オーストラリア、日本、南アメリカ、南アフリカからも、わざわざ人が訪れます。それが、この見本市の重要性を証明しています。

インテリアのブースに足を運ぶ人たち。 ©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Jens Liebchen

― 特に注目している、力を入れているセクションはどこでしょうか?

コロナ前、消費者は「自分のためのものを買う」というスタンスでした。住居空間のインテリアに凝ったり、キッチンの新しい調理器具を揃えたりしていました。コロナ後は、家にずっといる必要がなくなり、再び旅行に出かけたり、レストランで外食するようになったりと、より“体験”を求めるようになりました。

そこで私たちも、家庭で必要なものを揃えるだけでなく、ホテル、レストラン、契約ビジネスなどを対象にし始めました。3年前から「HoReCa」と呼ばれるホスピタリティ部門を立ち上げています。
外食産業の業界では、テーブルクロスの上にあるものを「フロント・オブ・ハウス」と呼びます。そこで、見えない場所――レストランの裏方やキッチンで必要な「バック・オブ・ザ・ハウス」のためのプロダクトも揃えました。この領域もアンビエンテのフォーカス・グループになっています。

それに加えて家具セクションやインテリアにも力を入れていますが、対象は末端消費者に限りません。貸アパートメントやホテルなど、契約ビジネスを主な対象にしています。こうした出展によって新しい来場者が集まってきています。コロナ前のアンビエンテは、ほとんどがリテイラーのための見本市でした。しかし今は、建築家、インテリアデザイナー、プロジェクト企画者など、空間プロデュースに関わる人たちも集まっています。

プロフェッショナルを対象とするダイニング部門「HoReCa」。 ©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Petra Welzel

クリスマスワールドに関しても、季節のデコレーションやお祝いは各家庭だけでなく、公共の場でも必要です。「大きなスケールの照明」というセクションがありますが、屋外向けの大規模なデコレーション照明です。空港、駅、ホテルのロビー、市内のショッピングストリートにはこうした照明が求められます。

プロジェクト向けのメーカーもたくさん出展しています。来場者はインスピレーションを得るために会場にやってきます。その後、2〜3か月のやり取りを経て、プロジェクトを一緒に展開していくわけです。ですから、単にオーダーのために来るだけでなく、新たなビジネスの“マッチメイキングの場”にもなります。

また、大規模照明の主な顧客はショッピングセンターや不動産業者などです。一般の消費者はオンラインで買い物をします。そして、もし買い物に出かけるなら、単に商品を買うのではなく、何かを体験したい、インスピレーションを得たいと考えます。だからこそショッピングエリアにも工夫が必要になってきています。飲食店、レクリエーションの提案、広いスペースで感情に働きかけるようなデコレーションが求められているのです。

プロジェクトベースの関わりでは、例えば「どんなストーリー性をもって場所づくりをするのか」が話し合われます。メーカー側は、同じテイストで空間全体を構成できるものを提供できます。クリスマスだけでなく、メルヘンな世界観だったり、異国文化をテーマにしたり。ラマダン、中国の旧正月など、顧客が何を求めているかによって企画が進んでいくわけです。

クリスマスワールドの展示。華やかな光のインスタレーション。 ©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Thomas Fedra

クリスマスワールドはデコレーションのインスピレーションの宝庫でもある。©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Thomas Fedra

トレンドは常に多様化している

私たちのメッセが向き合う先は、ただし、末端消費者であることに変わりはありません。そのため、デザインのトレンドなどを見抜く必要があります。トレンドのプレゼンは、新しい色、素材、フォルム――特に居住空間を対象にしています。ただ、今日それは「お手本」の提示ではありません。今は個性があり、個人のチョイスがあります。そこで私たちは今年、「Brave(大胆に)」「Light(軽やかに)」「Solid(かっこよく)」の3つのテーマで、プロダクト展示「Trend 26+」を企画しています。

期間中のトークイベント「Compass Talks」で、未来リサーチャーのベン・ハマスリーがこう話していました。50年代から80年代までは、皆が同じスタイルを追いかけていた。けれど今はもっと多様だ、と。昔は50年代の写真を見ると一目で50年代だと分かりました。皆が50年代の服を着ていたからです。60年代、70年代、80年代も同じです。今日、2026年の写真はもちろん、2010年や2000年の写真に写った人たちの服装を見ても、どの時代か判別しづらい。それぞれが個性をアピールする時代になったからです。

今後の消費者ビジネスについて「Compass Talks」に登壇するベン・ハマスリー。©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Thomas Nedra

また、消費者の間では“中間”がなくなりつつあります。安価で流行のものか、飽きがこず長く使える高価な価値あるものか――選択肢が両極端になっていますね。

― 日本からの出展に期待、注目している点はありますか?

伝統的な技術に近代的なデザインを取り入れた、長く使えるものが日本からは出展されています。私は東京でのインテリアライフスタイル見本市に行ったり、実際に地方の生産者を訪ねたりしましたが、クオリティの高さは明確でした。特に刃物類には注目しています。機能的で使いやすく、ヨーロッパでは生産されていない、こちらのマーケットでは見かけないプロダクトがたくさんありますね。

ユリア・ウーレックが日本のプロダクトで絶賛していたツボエの「irogami ひとひらのおろし金」。

「私たちの時代を代表するデザイナー」と紹介された深澤直人と、バルセロナを拠点とするデザイナーのカティ・シーヴェックのDesigner Dayトークには、多くの人が詰めかけた。©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Pietro Sutera

プリーツ構造で折りたたみが簡単なエコバッグが好感を呼んだ「Shupatto」。©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Pietro Sutera

― エシカル・デザインの今後をどう捉えていますか?

ヨーロッパでは、さまざまな助成金制度がカットになったり、地政学的な観点からエシカルについて大きく謳わなくなったりしています。ただし、生産側は、もう“自動的”と言っていいほど、サステナブルな生産やリサイクリング商品の開発を続けています。ヨーロッパのスタンダードは高いと思いますが、インド、アフリカ、南米でも意識は高まっていると思います。

私はアジアに行くことが多いのですが、2011年に初めて上海を訪れたときはスモッグで街が霞んで見えました。最近はそこまでではありません。電気自動車の進化で空気がきれいになっています。アンビエンテでは今後も、エシカルな取り組みを続けていくつもりです。

スウェーデン「aarke」の炭酸水作りキット。エコロジカルで洗練されたデザイン。©︎ Messe Frankfurt Exhibition GmbH / Petra Welzel

― アンビエンテの強み、独自性はどんなところでしょう?

消費者への直接販売ではなく、オンラインショップ、デザイナー、建築家など、完全にビジネスパートナーを相手にしています。170カ国から4600社以上が出展します。長いフライト時間をかけて、オーストラリアからもバイヤーがはるばるやって来ます。

そして、この見本市はドイツ人だけが対象ではありません。日本からの出展者にアメリカの顧客が付くこともある。非常にインターナショナルなネットワークづくりの場なのです。

また、自国内でアンビエンテ等の展示会をプロモートするセールスパートナーは、家族経営の小さな組織も含め、世界に約50存在します。各国・地域で出展・来場のプロモーションを担い、各国のトレンド変化をきちんと捉えています。そのネットワークによって各国のトレンドを世界にアピールし、来場者を獲得できる。それがアンビエンテなのです。End