プロダクトから空間デザインまで幅広く携わる
テキスタイルデザイナーの光井 花

「ディオール バンブー パビリオン」のフィッティングルーム(2026)。Photos by Daici Ano

テキスタイルデザイナーの光井 花は、各地に息づく伝統的なテキスタイルの魅力を掘り起こし、その価値を再構築することで新たな命を吹き込んでいる。クッションカバーやバッグ、靴下、コースターといったプロダクトをはじめ、オリジナルテキスタイルの開発、ホテルやショールームの内装テキスタイルまで、手がける分野は多岐にわたる。2026年2月には、東京・代官山にオープンしたディオール バンブー パビリオンの壁面作品を制作した。活躍の場を広げ、ますます存在感が高まっている光井に、デザインに対する考えを聞いた。

「Cushion Cover -久留米絣-」HANA LAB(2025)。福岡県の下川織物と協業して開発した、オリジナルの久留米絣の生地で製作したクッションカバーとバッグ。

「IKAT STEPS SOCKS」bpbp Socks (2025)、「PIXEL WEAVE-ICHIMATSU- Coaster」HANA LAB(2025)。

建築家の父、光井 純から受けた影響

光井は1990年、アメリカ・コネチカット州に生まれた。父である建築家の光井 純が、同州に拠点を置くシーザー・ペリ&アソシエーツ(現・ペリ クラーク&パートナーズに勤務するため家族で移住していたからだ。

シーザー・ペリ&アソシエーツジャパンの創設に伴って1992年に帰国。幼少期から父の仕事に身近に触れて育ったことが、自身のクリエイションに大きな影響を与えたと感じているという。

「Textile Installation project for LUMILACE TOYOSU」Jun Mitsui & Associates Inc. Architects(2015)。光井 純のプロジェクトであるルミレイス豊洲(東京都豊洲の集合住宅)のエントランスのファブリックアートのデザイン監修に携わった。滝の水の流れを、透け感のあるテキスタイルで表現した。

海外留学が大きな転機に

高校生になり、大学進学を考えるにあたって建築に関心はあったものの、大きなスケールで構想する仕事よりも、手元で生み出せるもののほうが自分には向いているのではないかと感じるようになった。そんな折、東京・六本木のショップ「」を父と訪れる機会があり、テキスタイルデザインの世界に出会う。バッグやコースターといった小さなプロダクトから、建築空間を彩るものまで、テキスタイルの表現の可能性と奥深さに強く心を惹かれた。

2010年多摩美術大学に入学し、生産デザイン学科テキスタイルデザインを専攻。在学中は、ウェアテキスタイル(身にまとうテキスタイル)や織りの技法を中心に学んだ。卒業後はロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)へ留学。海外で学ぶなかで、日本人としての感性を生かすことを考え、日本の伝統的なテキスタイルについて調べるようになる。

「The New Value of Waste」(2014)。RCAの修了作品。このテキスタイルデザインがアレクサンダー・マックイーンの2015SSコレクションに採用され、光井はそのテキスタイルコンサルタントとして生地のデザインおよび生産に携わった。

最初に強い興味を抱き、制作に取り組んだのは「裂(さ)き織り」だった。破れたり着古したりした着物を細い糸状に裂き、それを再び織り直して新たな布へと蘇らせる、日本の伝統的な手織り技法だ。光井は卒業制作でファストファッションの衣服を裂いて糸状にし、新たな衣服へと生まれ変わらせることを試みた。制作にあたり、プロダクトデザインなどの他分野の同級生にも声をかけて協力を仰いだ。

ちょうどその頃、RCAの専任教授が、アレクサンダー・マックイーンのテキスタイルディレクションを担当することに。教授が光井の裂き織りの卒制を同ブランドに紹介したことをきっかけに、コレクション用の衣服に採用された。

光井はこう振り返る。「周囲の人たちの協力を得てひとつのかたちにすることができ、さらに世界の舞台で多くの人の目に触れる機会をいただいたことを感慨深く感じています。また、素材を変えるだけで、日本で長く受け継がれてきた技法の見え方が大きく変わる可能性を実感できたことは、自分にとって大きな手応えとなりました」。

「現代風MONPEクリエーターズコラボ」うなぎの寝床(2023)。久留米絣の予期しない模様のゆらぎをデザインに取り入れ、現代版MONPEに仕立てた。製作協力:下川織物

日本の伝統的なテキスタイルへの興味

光井は、日本の伝統的なテキスタイルへの理解をさらに深めるために、RCA修了後に帰国。実務経験を積むためにイッセイミヤケに入社して約7年従事し、さまざまなことを学んだ。

2023年に退職後、地域文化商社のうなぎの寝床とのコラボレーションプロジェクトに参加。以前から注目していた着物の絣(かすり)の偶発性が生み出す模様の揺らぎをデザインに反映させて、オリジナルデザインの久留米絣の生地を開発した。制作にあたり、福岡県八女市の下川織物の協力を得た。そして、2024年4月ミラノのサローネサテリテでこれまで手がけた裂き織りと絣のオリジナル生地を展示。本格的にフリーランスとして活動を開始する。

「Visual Illusion」ミラノ・サローネサテリテ(2024)。テキスタイルの構造やパターンによって生まれる視覚的な錯覚をテーマに展示した。

「PIXEL WEAVE -IGUSA PROJECT-」(2024)。福岡県筑後地方の伝統的な掛川織の技法を用いて、新たな表現を試みた。製作協力:イケヒコ・コーポレーション Photo by Naoaki Yokota, Model Gernhaeuser Magdalena

光井はテキスタイルのリサーチのために各地の工場に足を運んでいるが、久留米絣の制作に携わるなかで、八女市には複数回訪れる機会に恵まれた。そこで地域の日常に根づく、い草で編まれた花ござの存在を知り、さらに花ござを製作するイケヒコ・コーポレーションとの出会いへとつながった。

花ござの織り模様がデジタル画像を構成するピクセルのように見えたことから、図案を色ごとに分解し、それを織りによって再構成する方法を試みた。図案については、花ござやい草の魅力を伝える入り口として、多くの人の関心を引くものにしたいと考えて、最終的に「モナ・リザ」を選んだ。この作品は、DESIGNTIDE TOKYO富山県美術館などで展示され、大きな注目を集めた。

下川織物で生地の製造工程を体験(2023)。自分がデザインしたテキスタイルがどのようにつくられるのかを体験することで、より久留米絣への理解が深まった。

日常のなかに長く息づく作品をつくりたい

2025年は、ほかにも年間を通してさまざまなデザインイベントや展示会に精力的に出展。そこで発表した作品はいずれも、職人やメーカーとの共創によるものだ。その想いを光井は語る。

「私の作品は、自分ひとりで生み出すものではなく、職人さんやメーカーの方々と協働しながら進めています。関わってくださった方々にとって、売上はもちろん、新たな出会いや仕事の広がりなど、何らかの価値が生まれることをいつも考えています。そのためにも一過性の流行で終わるのではなく、時を経ても日々の生活のなかで長く息づく作品をつくることを目指しています」。

「ディオール バンブー パビリオン」のフィッティングルーム(2026)。伝統的な畳の素材である「い草」を使用した壁面作品と、最終仕上げに手刺繍を施した壁面作品の2種類を手がけた。有機的なモチーフは、18世紀の牧歌的な風景を描いたディオールのアイコニックなデザイン「トワル ドゥ ジュイ」を彷彿とさせる。左写真のスツールは、we+のデザイン。Photos by Daici Ano

空間デザインのプロジェクトの広がり

光井の作品を目にし、その素材や技法に可能性を感じた人との新たな出会いが生まれている。今年2月にオープンして話題を集める東京・代官山のディオール バンブー パビリオンのフィッティングルーム用壁面作品の制作をはじめ、ホテルの内装や分譲マンションのエントランス壁面のアートワークなど、空間デザインに関わるテキスタイルのプロジェクトにもつながっている。

「HAMA reimagined」(2025)。alter. 2025, Tokyoの出展に向けて、テキスタイル以外の素材を用いた作品にも挑戦。有田焼の焼成時に器を支える台座「HAMA(ハマ)」をカラフルなテープと組み合わせて、パーティションへと再構成した。Photos by Naoaki Yokota

ますます活躍の場を広げている光井に、デザインに対する考えを聞いた。

「私はデザインを、“手段”や“方法”として捉えています。テキスタイルは、柄の好みといった表層的な印象で評価されがちですが、私は少し異なる視点を提示することをいつも心がけています。絣であれば、伝統的な技法をそのまま踏襲するのではなく、見る角度や距離によって印象が変化する仕掛けを施し、新たな面白さや発見を生み出すことを模索しました。この世界に存在するあらゆるテキスタイルは、それぞれ固有の歴史や文脈を背景にもち、いまだ見ぬ可能性を数多く秘めています。その奥深さに向き合いながら、これからも潜在的な魅力を掘り起こしていきたいと考えています」。

「PIXEL WEAVE–博多織–」西村織物(2026)。ZOZO NEXTによる五感や感情、人のなかに眠る感性を呼び起こすプロジェクト「呼色(よびいろ)」より。300年以上の歴史をもつ博多織の技法をベースに、ジャカード織と蓄光素材を組み合わせた光によって表情が変化する作品。制作協力:KAKEJIKUYA

とりわけ2025年は、一年を通して精力的に数々の展示に参加。その姿から尽きることのないバイタリティと、新しい領域にも臆することなく挑み続けるたくましさも感じられた。現在は日本の伝統的なテキスタイルを軸に作品を展開しているが、今後は視野をさらに世界へと広げ、各地に息づく素材や技法の魅力を掘り起こしていきたいという願望ものぞかせる。これから先、どのような素材や技法と出会い表現を広げていくのか、その歩みの先に広がる新しいテキスタイルに期待が高まる。End

光井 花(みつい・はな)/テキスタイルデザイナー。1990年アメリカ・コネチカット州生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻卒業。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのテキスタイル領域修士課程修了。帰国後、イッセイミヤケ、ザ・ノース・フェイスを経て、2024年に独立し、HANA LAB (Hana Material Design Laboratory)を設立。服地だけではなく、建築のアートワークなども手がけ、テキスタイルを軸に幅広く活動する。多摩美術大学生産デザイン学科テキスタイルデザイン専攻の非常勤講師。
Photo by Yoko Kusano