高級ステレオヘッドホンブランド「ATOMIC FLOYD」創設者に聞く
『ブランドを興すということ』

「厳選した素材を使い、究極のサウンドと至高のデザインを融合する」 をコンセプトに開発されているヘッドホンブランド「ATOMIC FLOYD(アトミックフロイド)」。2008年に最初の製品が英国のアップル・ストアで発売されるやいなや、洗練されたスタイルと高音質なサウンドは、オーディオ愛好家のみならず、ファッショニスタの間でも大きな話題を集めました。フィリップスのヘッドホン開発に携わった後に、自らが理想とする究極のヘッドホンを目指してブランドを興したジェームス・ストロング氏に話を聞きました。

▲ジェームス・ストロング氏。ロンドンのデザインスクールを卒業後、フィリップスを経て、「ATOMIC FLOYD(アトミックフロイド)」を発足させた。

――携帯電話やデジタルオーディオプレーヤーの普及で、ヘッドホンなど関連アクセサリー類の市場が活況を呈しています。こうした背景が、ブランドの創業につながったのでしょうか?

ソニーが「ウォークマン」を発表したことで、私たちは屋外で手軽に音楽を楽しむ方法を手にしました。以降、機器についてはデジタル化などの恩恵もあってずいぶんとクオリティが上がりました。一方、ヘッドホンの進化のスピードは、ハードに比べるとやや遅かったように思えます。それにはいくつかの理由があるわけですが、私にはその状況が逆にチャンスに映りました。すなわち、高音質で、品質も高く、デザイン性に優れたものがあれば、新たな市場を創造できると。そうした思いが、アトミックフロイドの立ち上げにつながっていきました。

▲耳掛けタイプの「AirJax Titanium2」。柔らかく、耐久性の高いチタニウム製イヤーフックを採用することで、長時間の使用でも疲れにくいのが特徴。

――起業する以前は、フィリップスでヘッドホン開発に従事されていましたが、そのときに高級ヘッドホン市場の可能性を意識されたのですか?

アイデアそのものは、フィリップスに入社する前から持っていました。アトミックフロイドに関する構想が先に頭にあり、それを実現する1つのステップとしてフィリップスで働く道を選択したのです。フィリップスには、ヘッドホンをつくるためのノウハウを学びに行ったと考えています。フィリップスを選択した理由ですか……優れたエンジニアやデザイナーが多数在籍し、ヘッドホンの製造ラインもしっかりしていたからです。

――ブランドを興すうえで、あなたが最初に行ったことは?

  一緒になって、このプロジェクトに関わってくれるメンバーを集めることでした。幸い、ナイキやアディダスなどで働いた経験を持つデザイナーであったり、米国の音響機器メーカーであるシュアーに在籍していたエンジニアらが興味を示してくれました。私たちは、自らが持つパフォーマンスを最大限発揮するために、チームを組んで開発する手法を選択したのです。

――スポーツメーカーでキャリアを積んだデザイナーを開発チームに迎えている意図とは?

 ナイキから移ってきたきたデザイナーには、時計やアイウェアラインの開発経験がありました。また、チタンやインジェクションモールディングなど、ハイテクを要する加工技術にも精通していました。こうした知識に加えて、製品が身体に触れたときの心地良さであったり、フィット感を出すためのノウハウなどをヘッドホン開発に還元してもらえればと考えたのが理由です。

▲カナルタイプの「HiDefDrum AcousticSteel」。iPhoneやiPodの操作が行えるマイク付きリモコンを搭載する。ケーブルには、防弾チョッキなどに用いられるケブラーを使用。

――ジャック部に24金メッキを施したり、本体のドライバー部にネオジム・レアアースマグネットを採用するなど、厳選した素材使いが注目を集めています。音質の良さという評価は、素材に起因するのでしょうか?

素材をどう使うかは、確かに重要です。私たちの製品では、筐体の部分に「アコースティックスティール」というひじょうに薄いメタルを採用しています。1300℃の高温で10時間以上熱処理を行い、極限まで薄く加工した特別なステンレス素材です。これを使うことで、強度を高める効果を生むと同時に、ヘッドホン内部の空間を、厚みのある素材を使うよりも広く確保することができるのです。空間が広ければ、それだけ組み込むことの出来るコンポーネントの選択肢が増えます。良いコンポーネントを選択できるということは、結果的に良い音を鳴らすことができます。良いコンポーネントを組み込むことができますし、共鳴性が生まれて良い音を鳴らすことができます。そうやって見ていくと、音質の良さは素材と構造上の工夫によってもたらされているといえるでしょう。

――音は嗜好品とも言われます。最終的に、この音で良しとする判断は、人間の耳で行っているのでしょうか、それとも機械的にコンピュータで計測して判断しているのですか?

両方です。私は自分の耳を使っていますし、エンジニアは機械を使って測定している。その両方があってはじめて正しい音の判断が可能と考えています。

▲現在までに商品化された6アイテムのアウトラインスケッチ。それぞれに、航空機のシートで使用できるフライトアダプタとDJジャック、専用ポーチが付属している。

――2008年以降、現在までに6つのアイテムが製品化されていますが、理想とする目標の何%ぐらいが実現できたと考えていますか?

まだ始めたばかりという認識ですから、理想の10%にも満たないぐらいでしょうか。しかし、今の素晴らしいチーム構成や開発環境を考えれば、今後さらに素晴らしい製品が提供できると確信しています。そうなれば、この数字はおのずと上がっていくでしょうね。

一方で、懸念材料もあります。私たちはかつての遅れを取り戻すべく、ヘッドホンを急速に進化させてきたと自負しています。こうした成長に比べて、市場の変化が遅れていることが気がかりです。ここで私が“市場”と呼ぶのは、消費者のことではありません。リテール(流通)のことです。ひじょうに高い志を持ってものづくりを進めている高品質な商品が、数百円で買えるものと一緒に並ぶ今の売り場環境は、ブランドイメージの訴求という観点からも決して好ましいものではありません。専門知識を有したスタッフを配し、空間全体で商品やイメージを訴求するなど、リテールの面では改善の余地がまだまだ多いと感じています。私たちもできるだけ早い段階で自分たちのフラッグシップショップを設けたいと思っています。これはまだアイデア段階ですが、できれば渋谷につくりたいと。

▲サイズの異なる3種のイヤーチップが付属。自分に合ったサイズを選ぶことで、高いフィット感を得ることができる。

――次の製品はいつ頃登場する予定ですか?

 詳しいことは内緒です。ただし、今年の終わり頃にはアナウンスできるはずですので、どうか楽しみにしていてください。

▲渋谷にアトミックフロイドの専門店をオープンしたいと語ったジェームス・ストロング氏。目標とする「究極のヘッドホン」づくりは、スタートしたばかりだと言う。

商品に関するお問い合わせは、下記まで。
フォーカルポイントコンピュータ
Tel. 03-5856-8808
www.atomicfloyd.jp

取材協力/ステディ スタディ