デザイン・マイアミとメゾン・エ・オブジェ・アメリカ開催から読み解くマイアミという都市

明日からパリで開かれるインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」。3月にはシンガポールで「メゾン・エ・オブジェ・アジア」が、5月には初の「メゾン・エ・オブジェ・アメリカ」がフロリダ州マイアミビーチで開催される。これはインテリア、デザイン産業にとって、マイアミが有望な経済圏になりつつあることを示しているのではないだろうか。

文/長谷川香苗

写真/ James Harris


マイアミがそうした位置づけになったのは、デザイン・マイアミの功績によるところが大きい。2005年、デザイナーによる限定品を扱う15のデザインギャラリーによって立ち上がったデザイン・マイアミは昨年10年目を迎え、参加ギャラリー数が35にまで増え規模が拡大している。

しかも、2005年から毎年参加しているギャラリーの数は11。ギャラリーにとっての参加の優位性は、この数字からも想像に難くないだろう。扱うアイテムのほとんどが高額の一点ものであり、アートピースと同じくコレクションのための家具。「実用性に欠ける」「そんなデザインは感心しない」という声も少なくはないが、それでも10年前、ロンドン、パリ、ニューヨークなど世界各地のデザインギャラリーが一堂に集い、選りすぐりのデザイン家具にまとめて触れることのできる機会をつくったデザイン・マイアミの意義は大きい。業界関係者をメインターゲットとした新製品の見本市である「ミラノサローネ」や「メゾン・エ・オブジェ」と異なり、一般の消費者が買いたいときに買うことのできるマーケットをつくったからだ。毎年12月の開催時にはニューヨークタイムズ紙が取り上げるほどの経済効果をもたらしている。

▲ 1回目から参加するニューヨークのCristina Grajales Gallery

▲ パリのGalerie Patrick Seguin

デザイナーにとっても、普段、企業のための量産品のデザインという枠組みとは異なり、ギャラリーを通じて自分の個性を前面に出して発表できることは貴重な機会。「実用的ではないが、“眺めて愛でる”ためのデザイン家具への理解は、この10年で深まった」とデザイン・マイアミのエグゼクティブ・ディレクターであるロドマン・プリーマックは言う。

▲ レバノン・ベイルートのCarwan Gallery

▲ 韓国・ソウルのGallery SEOMI

もちろん、こうした家具を購入するのは依然として富裕層だ。しかし、最先端科学や航空技術が次第に汎用品に用いられるトリクルダウン理論のように、一握りの層が享受していたものが、より多くの需要が起きることで産業として成立するようになる。

マイアミは今、家具やインテリアデザインの需要が見込まれる街になりつつある。地理的にも航空便の運航数からも、中南米からマイアミへのアクセスのほうがヨーロッパへ行くより至便であり、年間約1,400万人が観光目的だけでなくマイアミを訪れる。さまざまなビジネスの観点からも戦略的に重要な土地だ。「すでに起業家精神に富む人材が移り住んでスタートアップ企業などが生まれ、創造都市となりつつある」とクリエイティブ・クラスについて研究する米国の社会学者リチャード・フロリダは述べている。

こうした環境下で開催されるメゾン・エ・オブジェ・アメリカに向けてメゾン・エ・オブジェのトップ、フィリップ・ブロカールは昨年、マイアミ、メキシコ、リオデジャネイロ、サンパウロを巡って地元のインテリアデザイナー、不動産業者、ホテル事業者、ジャーナリストたちと交流し、情報交換を行ってきた。パリやシンガポールとは異なる、北米、中南米向けの商材というターゲットを絞った見本市になるのだろうが、今後、デザイン産業が中南米でどのように成長していくのか期待したい。

▲ スワロフスキーによるインスタレーション。Jeanne Gangのデザインによる「Thinning Ice」