第6回 サンルイ、ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール氏インタビュー

照明関連の見本市「エウロルーチェ」には、創業1586年のサンルイも出展。同社は2011年から3回目の出展となる。技術革新が進む照明業界でクリスタル工房はどんなメッセージを打ち出すのか。サンルイのジェローム・ドゥ・ラヴェルニョールCEOに話を聞いた。

文/長谷川香苗

▲ キキ・ファン・アイク「Matrice(誕生の意)」
開くことで、和紙が光を和らげる。

▲ パオラ・ナヴォーネ「Hulotte(ふくろうの意のフランス語)」
ある日、ナヴォーネがサンルイ工房の奥に眠る5,000以上もの歴史的作品を目にしたときに生まれたデザイン。窓から差し込む光は、カットクリスタルを通して光のダンスを床に描き出したという。ナヴォーネいわく「精緻なカット技術を持つ職人たちに冒険してフリーハンドのような曲線を描いてもらいたかった」。


光で空間をつくるという意味では、カットクリスタルほど照明器具に適した素材はないのかもしれない。もともと19世紀からシャンデリアといった古典的な照明器具を製作してきたサンルイだが、2010年からは400年以上にわたって受け継がれてきたガラスづくりに現代の解釈を与えるかたちで照明器具を発表している。

ドゥ・ラヴェルニョール氏は「いつの時代も伝統に立脚した革新を生み出すのがサンルイです」と言い、前回のエウロルーチェではオランダの若手デザイナー、キキ・ファン・アイクを起用した「Matrice」コレクションを発表した。シャンデリアのように固定して取り付ける照明とは異なり、ポータブルなフロアランプ、テーブルランプなど現代の暮らしに合わせてさまざまなシーンで使うことができるアイテムだ。もちろん、どのラインも光源にはLEDを使っている。

こうした新作を開発するうえで重要なのは、常にサンルイの歴史とのつながりを感じさせるものであること。429年の歴史を持つ同社にとって未来とは、これまで積み上げてきたレガシーの上に築くものなのだから。

ファン・アイクは、通常はクリスタルをつくる道具として表に出ない鉄の鋳型そのものをランプのデザインにした。型からクリスタルを取り出すように型の両側を開けることで照明になる。

さらにパオラ・ナヴォーネ デザインの照明も発表している。今年はフランスの若手デザインデュオであるエティエンヌ・ゴノーとエリック・ヤンケを起用した新作「Quartz」コレクションを発表。水晶の塊そのものが光を放つようなデザインは、きわめて透明度の高いクリスタルと高度なカット技術がなければ形にできない。サンルイの職人の腕が冴えわたるものだった。

こうした製品は、工房にいる約300人の職人たちによる手づくりだ。機械生産とは異なり必然的に高価なものになる。「照明器具で手づくりというのはぜいたくですが、工場でつくられた画一的な製品が多いなか、400年以上の歴史から生まれる物語がデザインとつながり、比類ないクオリティで実用的であれば、理解していただけると思っています」とドゥ・ラヴェルニョール氏は語る。

技術革新が急速に進んでも、429年の積み重ねはつくり上げることができないということだろう。

▲ エティエンヌ・ゴノー、エリック・ヤンケ「Quartz」
フランスのデザインデュオによる新作。

▲ サンルイのジェローム・ドゥ・ラヴェルニョールCEO
Photo by Vincent Leroux