トランプ?それともかるた?
「こどもカタルタ」

裏面は青、赤、オレンジ、黄、緑のクレヨンの斜線。その上に「こどもカタルタ」の文字。表を返すと「夜になると」「まさか」「夏のおわり」「ところで」などの文字が横一列に配置された不思議なカード。これは「こどもカタルタ」という物語づくりのメソッドカードです。縦長のひらがなが印象的なこどもカタルタには、AXISフォントコンデンスが使われています。このカード誕生の話をカタルタ発案者のメドラボ代表の福元和人さん、そしてグラフィックを担当したジャッドの清水隆司さんにお話を聞きました。

インターネットを活用して生まれたこどもカタルタ

カタルタとは何でしょうか?

福元 発想力を高め、コミュニケーションを豊かにするカードです。スペイン語でトランプを「カルタ」ともいうそうで、それに「語る(カタル)」を組合せた造語を名前にしました。学生時代の私の友人の「世の中のたいていの問題は想像力の問題のような気がする」という言葉がずっとひっかかっていて、それなら想像力を刺激するのにはどうすればいいのだろうと自分なりに延々と考えていて、見つけた解がカタルタでした。誰でも知っているトランプというフォーマットに、視点の切り替えのできる言葉を書いたものです。文章をつくったり、発想を切り替えたいときに、カードに書かれたキーワードが手助けとなります。

こどもカタルタはその子供版ですか。

福元 はい。推薦児童図書の中から文頭の言葉でよく使われているものを抜き出しました。また子供の言語能力を考えて、大人のカタルタに比べ、感嘆詞や「つぎの日」「とおくのほうで」など時や場所を表す言葉を多めに取り入れています。

並べ方を変えただけで、物語が生まれるキーワード。

カタルタはどのように誕生したのでしょうか?

福元 私は経済学部出身ですが、同じ大学に建築学科がありました。私自身元々大工になりたかったということもあり、大学内外に建築関係の友人が多かったのです。そのなかにイラストレータを使うのがうまい人がいて、彼にプロトタイプをつくってもらいました。建築学科の友人たちにはいろいろ影響を受けました。カタルタは言葉を捕獲して構造物をつくり上げるものですが、どこか建築デザインとも共通するところがあったのかもしれません。
 そこからミクシィやフェイスブックなどSNSでカタルタを使うイベントを企画し立ち上げたのです。2012年頃は今ほどSNS疲れということがいわれてなかったので、呼びかけるとかなり効果があり、多くの人が集まりました。飲食店などでパーティーがあると、そこでこんなゲームがありますよと紹介することから始めていきました。ストーアーズ・ドット・ジェイピーなどのウエブショップやクラウドファンティングなども使いました。
 ちょうど個人活動を支えるインターネットサービスが充実してきていて、誰でもどこでも何かを立ち上げることが簡単になってきたときだったと思います。そういう意味では時期的な幸運に恵まれていたといえるでしょう。

AXISフォントコンデンスの文字がバランス良く配されている。

鹿児島に戻ってきた仲間たちと

清水さんにデザインを依頼するきっかけは?

福元 私は横浜と東京に住んで、4年くらい前に鹿児島に戻りました。清水さんもやはり鹿児島に戻っていたのですが、共通の友人を通して知り合うことになりました。

福元さんの周りにはUターンしている人が多いのですか?

福元 そうですね。私が帰った数年のうちに戻ってくる人が増えてきた気がします。こどもカタルタ以外のカタルタのグラフィックデザインをいくつかお願いしたオンドデザインの馬頭亮太さんもそうです。
 地方都市なので、共通言語を持つ人の絶対数が少ない環境にあります。そのかわり通りの良さというのがあって、何かをやっていると他人の目に付くのが速い。仕事をするうえで「すぐに出会える」「すぐに伝えることができる」ということは大きな利点です。

清水さんにはカタルタのデザインについてどんな発注をしたのですか?

福元 それほど注文はつけませんでした。ただ前提として、1つは楽しくなるようにということと、もう1つは複数のカードを伏せて並べたときにも美しさや面白さが生まれるとうれしいと、お願いしました。

通販のほか、本屋や雑貨屋などでも販売。最近では小学校や幼稚園などの教育施設や介護施設からの注文が増えている。

子供たちが「触れたくなる」デザインを

福元さんからどんな依頼があってできたのですか?

清水 細かい要請があったようには記憶していません。デザインに関しては任せてもらいました。

デザインに当たってどのようなことを考えたのでしょうか?

清水 私が心がけたのは、子供たちが「触れたくなる」デザインです。まずはカードに触れようと思わなければ文字を並べる遊びはできません。自分にも小学生の子供がふたりいるのですが、彼らが楽しんで触ってくるものにしたいと考えました。それでまず、裏面には子供が親しんでいるクレヨンの線を考えました。そのクレヨンの線を生かしながら、書体をどう合わせるかということを考えたのですが、文字に割けるスペースはかなり限られてしまいます。表面は、言葉遊びに使うわけですから、文字にインパクトのあるものを使いたい。そこでAXISフォントコンデンスを選びました。私は基本的に文字に長体をかけるのがいやなのです。正体が綺麗だと思うので、できた形を素直に使いたいのです。その点コンデンスは使いやすかった。

その他どんなお仕事をされているのですか?

清水 私も福元さんと同じように、東京や京都で、学生時代をおくり、デザインの仕事をし、鹿児島に戻ってきました。10年ぶりくらいに戻ると生まれ育った土地でありながら、少し違って見えてきます。地元の業界ではよそ者扱いされて、ちょっと孤立感を味わいますし、同時に子供のときには気がつかなかった鹿児島の魅力も見えてきました。
 今はジャッドというフリーペーパーもつくっています。年に1度一般公募をして編集スタッフを集め、雑誌をつくっているのです。この雑誌から仕事が入ってくることもあります。また反対に焼酎メーカーのラベルをデザインしたところから、ジャッドに広告を出していただけるということもありました。

「かごしまのわたしたちの周辺」という副題のフリーペーパー「JUDD」。この号は「北薩」特集。さつま揚げのレシピから、郷土の祭り、工芸品、若いふたりの恋の話など多彩な話題を取り上げている。

フリーペーパー名であり、会社名でもある JUDDとはどういう意味ですか?

清水 「じゃっど」は鹿児島弁で、「そうだよね」といったニュアンスの言葉です。横浜弁の「じゃん」のように語尾につけても使います。その音を表すのに、ひらがなやカタカナではなく、アメリカの現代美術家、ドナルド・ジャッド(Donald Judd)のスペルを使いました。

AXISフォントについてのご意見を聞かせてください。

清水 私はAXISフォントのコンデンスファミリーが好きでよく使っています。気に入っている点は小さな文字でも独特の主張をすることができるところです。洗練されていますし、しかもユニークなフォントです。表組みなどの細かいところに入れるときも使いやすいし、またメインに持っていっても華やかなのでとても重宝しています。これからも使っていきたいフォントです。

福元和人(ふくもとかずと)/鹿児島県生まれ。カタルタ考案者。2012年にメドラボとしての活動を開始。同年、語るためのカードセット「カタルタ」を発表。以降、同ツールが企業研修やカウンセリング、教育機関、まちづくりの現場など幅広いシチュエーションで受け入れられ、利用が全国へと拡大した。現在は、多様な文脈でのコラボレーションを通して、同ツールの可能性を広げるべく活動中。
http://www.kataruta.com/

清水隆司 (しみずたかし)/ロゴデザイン、エディトリアルデザイン、パッケージデザイン、グラフィックデザイン全般を制作。年に1度、ワークショップ形式で社名と同タイトルのフリーペーパー「Judd.」を発行している。
http://www.judd.jp
Photo by hideaki hamada

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