いい意味で期待を裏切る「バウハウスへの応答」展。
来年100周年を迎えるバウハウス国際プロジェクトのひとつとして

今からほぼ100年前の1919年、ドイツのヴァイマールで産声をあげた総合芸術学校バウハウス。1933年にナチスドイツの手によって閉校させられるまでの短い間に生み出された数々のデザインは、ヴァルター・グロピウスやミース・ファン・デル・ローエといった歴代の校長たちの偉業とともに、モダニズムの歴史のなかで最も印象深く、意義深いものとなっている。

京都国立近代美術館で開催中の展覧会「バウハウスへの応答」は、バウハウスの代名詞と言えるような、産業社会のプロトタイプとして工業化された素材を用いた家具や、合理性を追求したシンプルな幾何学形態の建築は存在せず、モダニズムのシンボルとしてバウハウスを求める人々の期待を、いい意味で裏切ってくれる展覧会ではないだろうか。

展覧会の冒頭に展示されているグロピウスによる「バウハウス宣言」では、第一次世界大戦後の急激な民主化と産業化のなかで、手仕事の訓練と習得を通じた造形芸術の統合を目指し、新たな時代にふさわしい建築、そして社会の創造を試みるラディカルな教育理念が述べられている。この理念は、工房教育や予備課程といった特徴を持ち、ヨハネス・イッテン、パウル・クレー、ヨーゼフ・アルバースといった多彩な講師陣によって具現化されていった。日本人として初めてバウハウスに学んだ建築家・デザイナーの水谷武彦による「素材研究ー3つの部分からなる彫刻、ヨーゼフ・アルバースの予備課程」を含む当時の学生たちによる作品は、バウハウスの教育カリキュラムを具体的に理解できる本展のひとつのハイライトと言え、モダニズムを推進する教育プロセスとしてバウハウスを捉え直すことができる。

▲当時の学生による課題作品。中央が水谷武彦の作品 Photos by Kaori Yamane

本展では、このバウハウスの教育理念・プロセスがどのように国際的に展開していったかを、日本とインドのふたつの学校とバウハウスの関係から紐解いていく。

1931年、東京に川喜田煉七郎が設立した生活構成研究所(1932年以降は改称し新建築工芸学院)は、帰国した水谷武彦らが協力し、バウハウスのカリキュラムを応用した実験的な教育に取り組んだ。会場では、彼らが全国各地で開いていた展覧会や講演会の様子、川喜田が編集していた雑誌「建築工芸アイシーオール」などが紹介され、当時のアカデミズムとは異なるかたちで、新しい時代の造形芸術としてのモダニズムが日本社会のなかに浸透していく熱を感じることができる。そのほか、グロピウスの言葉とともに「総合芸術」という概念を紹介した「みづゑ」(1925)、堀口捨己が表紙をデザインした「建築紀元(ばうはうす特集号)」(1929年)などバウハウスの情報を日本に伝えた貴重な雑誌も展示されている。

▲バウハウスと日本をテーマに今回新たに制作されたルカ・フライの作品「教育伝達のモデル」

▲1920年代にバウハウスを紹介した雑誌

 
バウハウスと同じ1919年に設立されたインド・シャンティニケタンの学校カラ・ババナは、インド文化に根ざした田園的近代化の創造を掲げ、独自の教育カリキュラムを現在まで築き上げてきた。展示されているプロダクトからはバウハウスとの形態上の類似は感じられないが、アーツ・アンド・クラフツ運動などからの影響を受け「美術と工芸は社会の活力となりつながる」というカラ・ババナの理念は、バウハウスとの共通性・同時代性を示している。教員同士の交流がきっかけで、世界で初めてのバウハウス展が1922年にインドで開催されるなど、日本とは異なった応答を見ることができる。

▲インドのカラ・バナナを紹介する展示スペース

注意すべきはバウハウスと日本・インドの関係が必ずしも主従や前後といったものではなく、タイトルの「応答」が英語で「Corresponding With」となっているように、それらが相互的かつ同時的なものだったということではないだろうか。過去の作品だけでなく、現在からの応答という位置付けで、ふたりの現代アーティストによるインスタレーション・映像作品も展示されている。

最後にこの特異なテーマが選ばれた背景を紹介しておこう。実は、本展はバウハウスの今日的意義を再考する国際プロジェクト「bauhaus imaginista」の一環として実施された。本展の内容は、来年春にベルリンで開催される同名の展覧会「bauhaus imaginista」の1セクションとして紹介されることになっている。この国際プロジェクトでは日本だけでなく、アメリカ、ロシア、中国、インドなどで関連プログラム(必ずしも展覧会だけでない)が組まれている。つまり本展は、独立した展覧会であると同時に、より包括的な展覧会の一部であり、かつバウハウスに関するリサーチ、国際的なアーカイブの構築作業でもある。展覧会自体がプロセスへと投げ返される実験的な枠組みもまたひじょうに興味深い。End

バウハウスへの応答

会期
2018年8月4日(土)~10月8日(月・祝)
開館時間
9:30~17:00 金曜日・土曜日は午後9時まで開館
※入館は各閉館時間の30分前まで
休館日
毎週月曜日 ただし、9月17日、24日、10月8日(月・祝)は開館し、9月18日、25日(火)は閉館
会場
京都国立近代美術館 コレクション・ギャラリー(4F)
詳細
http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2018/426.html