モビールの魅力
Form × Color × Composition × Motion

VOLTA『DALLAS』 このカラフルなモビールは、VOLTAというモビールブランドが制作するDALLASシリーズ。1950〜60年代に隆盛を極めたスカンディナビアン・デザインや抽象的なアートからインスピレーションを受けている。

自宅で過ごす時間が増えてしばらくたちますが、これまでとは違う過ごし方に価値を見出したり、家の中のものを見直したりと、自宅での過ごし方に意識が向いていると思います。筆者も自宅に彩りをプラスして空間の印象を変えたいと思っていたところ、インテリアショップでシンプルなモビールに出会いました。

吊るし型のモビールはよく見かけるのですが、それは珍しく置き型のもので、三角の土台と大小の円だけで構成されたモダンな色とフォルムが特徴でした。じっと見ているとカンディンスキーやクレーの作品が立体となって動き出したかのような詩的な世界を感じます。ゆったりとした動きで回りだすと、何の変哲もないわが家の空間に変化が生まれ、時間の流れ方までをも変えてしまうような気がします。

▲ 「DALLAS」のさまざまな動き。メタルパーツの有機的なフォルムと明快なカラーリング。空気の流れや手で触れることでゆったり揺れ動く。「形状:form」「色:color」「構成:composition」に「動き:motion」が加わって見え方がどんどん変わる面白さ。

そもそも、モビールとはどういうものなのでしょう? 私はたまにインテリアショップなどで見かけるものの、“なんとなく空間の一角に吊るされて、姿を変えながらただゆっくり動いている不思議なもの”といった印象でした。便利な機能がついているわけでも、流行りのものでもない。普段の生活に役立つものでも恐らくありません。今回わが家へ迎え入れたことをきっかけに、モビールについて調べながら、その魅力を考えてみました。

モビール(英: mobile、[ moʊˈbiːl]、モバイル、モービル)
★「動く彫刻(キネティック・アート)の一種で、紙、プラスチック、金属板、薄い木板等の軽い素材を糸や棒で吊り、特定の位置でバランスを取り安定するようにしたもの。
★デンマークでは古くから室内装飾として用いられてきたが、アメリカの彫刻家アレクサンダー・カルダーが芸術作品としてのモビールを創始したことでも知られる。
★カルダーは1930年ピエト・モンドリアンの抽象画にインスピレーションを受け、1932年に動く抽象画としてモビールを発表。当初は床置き式、機械仕掛けだったが、風の力で揺れるものへ変わり、さらに宙に浮かぶ図形を作りたいと模索した結果、天井から吊るすモビールとなった。
★モビール(mobile)という名前は、マルセル・デュシャンがアレクサンダー・カルダーの動く彫刻を表現するために考案した名称。

参考出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

▲アレクサンダー・カルダーのモビール作品。左は「Untitled,1976 』(ワシントン国立美術館)、右は「Carmen, 1974 』(ソフィア王妃芸術センター)。

カルダーのエピソードを知り、彼のモビール考案のインスピレーションはモンドリアンの抽象画であったことに合点がいきました。モンドリアンは絵画におけるフォルムと色彩を最も純粋な造形要素に還元することを目指し、線による構成と原色のみで無限の広さや新しい美を追求した作家です。モンドリアンの赤・青・黄と黒い線で区切った「コンポジションシリーズ」は誰もが知るところですが、カルダーはこのモンドリアンの平面作品における抽象世界を立体に起こし、さらに動かすことで「動く彫刻」という新たな表現を生み出したのです。

モビールはその場の空気にすべてを委ね、バランスを取りながらゆっくり動き、時には静かに止まっています。予測不能な動きをすると同時に、見えない空気がモビールの動きを通して感じられます。世の中がどんなにハイスピードで動いていても、また外の世界がどんなに騒がしくても、モビールはいつもマイペースで生き物のようにも見えてきます。部屋の一角に置いたモビールを見ていると、日々あくせくして生活している自分の気持ちを落ち着かせてくれる、そんな魅力があります。

Flensted Mobiles「Flowing Rhythm」 色と形が動き、背景の壁紙と相まって、みるみる見え方が変わる。まるで色と形が動く色彩構成を見ているよう。

私たちは自動車のカラーデザインに取り組んでいます。シンプルなモビールと複雑な自動車は全く違うように見えますが、両方とも“動くことで現れるものの美しさ”があるプロダクトだと思います。生きているかのような動きでさまざまな表情や穏やかな時間を与えてくれるモビールと、のびのび走り・しなやかに曲がり・止まり・再度走り出す躍動感のある自動車。動くモビールを通して、形に合う色、色の構成、配色といった色彩バランスの妙を考慮したデザインの大切さを改めて感じるとともに、これらの要素の関係性を探求することは自動車のカラーデザインをするうえでも大切だと感じました。これからも、形と色、さらに動きが加わった際の見え方に留意し、自動車の魅力を引き出せるような意匠を開発していきたいと思います。End