和洋菓子から探る、国を越えて長く愛されるモノづくり

▲「ようこそ!お菓子の国へ―日本とフランス 甘い物語―」(虎屋 赤坂ギャラリーにて2021年4月11日まで開催)

朝晩冷え込む日が増え、冬の気配も感じられる季節になりました。秋から冬にかけてのシーズンは、実り豊かな秋を感じさせる和菓子や年に一度の特別な日を彩るクリスマスケーキなど、多種多様な和洋菓子が登場します。それらを味わいながらホッとひと息つくのがささやかな楽しみなのですが、こだわり抜かれた見た目や味わいを堪能していると、和と洋それぞれの菓子文化への興味が湧いてきました。

そこで、現在虎屋赤坂ギャラリーで開催されている日仏のお菓子くらべをテーマとした展覧会「ようこそ!お菓子の国へ―日本とフランス 甘い物語―」(2021年4月11日まで)に足を運び、和洋菓子の歴史やつくり手の想いを探ってみることにしました。

和菓子はポルトガルやスペイン由来の南蛮菓子、中国由来の唐菓子や点心に影響を受けていて、その源流は木の実、果物、米などでつくった餅や団子だと言われています。一方フランス菓子は、イタリアなど諸外国の菓子やアラブの果物から影響を受けており、パン焼きの技術を基につくった菓子が源流とされています。

小豆や餅粉などを原料としていて、繊細な見た目と味わいが特徴的な和菓子。小麦粉・卵・乳製品が多く使われ、華やかさを感じさせる洋菓子。一見全く異なるように思えますが、諸外国からもたらされたものを取り入れたうえで独自の菓子文化を築き、長い歴史の中で洗練を極めたという点で共通していることがわかりました。

同展では、和菓子と洋菓子を代表するブランドとして、とらやとピエール・エルメ・パリが紹介されています。両ブランドの職人のインタビューを収めたムービーで特に印象的だったのは、異国の地で自国の菓子文化を広めようとする取り組みです。

和菓子を通して日本の菓子文化を海外に紹介したいという想いから、とらやがパリに出店したのは40年前のこと。当時は和菓子自体があまり知られておらず、豆を甘く煮ることや見慣れない造形への違和感といった異文化ギャップから、現地の人との距離はなかなか縮まりませんでした。そこで、とらやが始めたのはフランスの文化や嗜好も尊重した新しい和菓子の開発です。和菓子を通して日本文化を発信するためには「日本の和菓子をそのまま伝えること」よりも「美味しいお菓子を食べて喜んでもらうこと」が重要と考えたのです。これによりフランボワーズやコーヒーなど現地で馴染みある素材も取り入れた和菓子が誕生し、今では多くの人から愛されるブランドとなっています。

▲とらや「小型羊羹(夜の梅・新緑・おもかげ)」(左)とTORAYA CAFÉ「ヨウカンアラカルト (ローズ・ライチ・フランボワーズ)」。小倉、黒糖、抹茶といった和の素材だけでなく、ローズ、ライチ、フランボワーズなど海外でも馴染みある素材を取り入れた羊羹。

一方、ピエール・エルメ・パリは「伝統や経験に裏打ちされた匠の技で生み出される手作業の世界に価値を感じて重んじる」「他国の文化に対する興味やそれを受け入れる寛容さがある」といった日本人の特性を踏まえ、パリと日本で基本的に同じレシピを用いているそうです。とらやと対照的なアプローチではありますが、どちらも自国と他国の食文化を繋ぐ架け橋になりたいという想いのもと、異国の文化を最大限に尊重する姿勢を大切にしていることがわかります。

▲ピエール・エルメ・パリ「イスパハン」。フランスで馴染み深いローズ、ライチ、フランボワーズを組み合わせることで、複雑で華やかなハーモニーが生み出されたパティスリー。

今回和洋菓子の世界に足を踏み入れてみて「自身の固定観念を揺さぶる新しい感覚との出会いを大切にし、必要に応じて取り入れて、より良いものへと進化させていくこと」や「受け手の文化を尊重すること」の重要性に改めて気づかされました。

私たちは自動車のカラーデザインに取り組んでいますが、自動車は世界各地で使用されるプロダクトです。感覚的に美しいと思える意匠を追求するのもひとつの手ですが、和洋菓子と同様に各地域の文化に対する理解を深めたり、新しい感覚を柔軟に取り入れたりすることで、より多くの人の心を掴む意匠を開発していきたいと思います。End