世界が認めた日本のデザイン 前編 
iFデザインアワード2021 「産学協同から生まれたプロジェクト」

iFデザインアワードは、1953年スタートという長い歴史を誇る、世界的に権威のあるデザインアワードである。今春結果が発表されたiFデザインアワード2021では、過去最多となる52カ国から10,000点近いエントリーがあり、世界各国の審査員による厳正なる審査のもと1,744社が受賞。日本からも多数が受賞に至った。

ここでは前後編の2回に分けて、日本からの受賞作品をいくつか紹介しよう。前編は、本年度、日本の受賞作品に多く見られた産学協同プロジェクトを3つ。いずれもこれからを担う学生の教育・育成はもとより、新しいデザインの開拓を目指した取り組みである。それぞれのキーマンたちに話を聞いた。

SOGOKAGU × 京都工芸繊維大学 製品デザイン計画研究室
「世界に通用する家具を目指して」

▲「VIST BAJ」。上部は薄さを、脚部は細さを追求して洗練された軽やかな印象を目指した。

まずは自社企画開発のオリジナル製品から輸入品まで幅広く扱う業務用家具メーカー、SOGOKAGU京都工芸繊維大学 製品デザイン計画研究室によるコントラクトチェア「VIST(ヴィスト)BAJ」。製品デザイン計画研究室の木谷庸二教授と、SOGOKAGUの茂見尚希代表取締役に話を聞いた。

大阪に本社を構えるSOGOKAGUは、2015年三重県伊賀市に5軸の切削機械を導入したDESIGN LABOを建設。3代目社長となる茂見は「今後、さらにデザイン性を取り入れて、世界に通用する家具を開発したい」という想いを抱いていた。その後、ある講演会で木谷と出会い、対話を重ねていくうちに意気投合し、産学協同プロジェクトがスタートした。

▲隈 研吾設計の「SOGOKAGUのDESIGN LABO」。

木谷が教える製品デザイン計画研究室では、リサーチやマーケティング、ブランディングなど、デザインマネジメントの視点から総合的にものごとを捉えてデザインすることを課題に取り組んでいる。木谷は、「今回のプロジェクトでは、最初に『SOGOKAGUらしさとは何か』という根底を明らかにすることから始めて、それをベースに同社を象徴するようなアイコンとなる家具をつくることを目指しました」と語る。

造形面では、身体を支える人の骨盤をモチーフに座面から肘掛け、背もたれへとひと続きの形状にして、身体に沿う有機的なフォルムをテーマに置いた。上部はモールドウレタンを使用し、脚部はアルミを採用。デザインはもとより、座り心地や張り地、強度、耐久性については、SOGOKAGUのデザインラボで5軸の機械を用いて1/1モデルをつくり、テストを重ねた。

▲人の骨や骨格の有機的な形状や美しさを造形に活かした。

完成に至るまで試行錯誤の連続だったと茂見は言う。「骨盤をイメージしたフォルムに基づいて、モールドウレタンを使用しながら極限まで薄さを追求したことと、背もたれにあえて支柱を付けない形状が技術的に一番難しかったところで、この椅子の最も革新的な部分だと思います。その結果、強度と耐久性を備えながら、身体をしっかりとやさしく包み込む座り心地を実現しています。ぜひ当社のショールームなどで、多くの方に体感いただきたいですね」。

また、SOGOKAGUにとって初めてとなる「産学協同」について、茂見は「学生たちの自由な発想に驚かされ、これまで気づかなかった意外な視点など、いろいろなことを勉強させていただきました」と語り、得るものが多かったという。

▲「VIST(ヴィスト)BAJ」の試作を囲んで。京都工芸繊維大学の製品デザイン計画研究室の木谷庸二教授と学生たち。

一方の木谷も、「こうした実際の製品化への取り組みは、学生たちにとって大いに刺激になり貴重な経験になっていると思います」と話す。世界に通用する家具を目指して開発した「VIST BAJ」は、国際的な評価を得てiFデザインアワード2021を受賞。両者の取り組みは、その後も第二弾、第三弾と進められ、さらなる家具の開発に期待が高まっている。

▲左:SOGOKAGU 代表取締役 茂見尚希
  右:京都工芸繊維大学 製品デザイン計画研究室 木谷庸二 教授

シャディ・ラーバラン&マニュエル・ヘルツ × 京都工芸繊維大学 KYOTO Design Lab 「食を通して京都の都市を考える」

2つ目の産学協同プロジェクトは、スイスの建築家シャディ・ラーバランマニュエル・ヘルツ京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labが共同で企画・デザインした展覧会「Food Shaping Kyoto(京都を形作る食)」。京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labの池側隆之と三宅拓也にプロジェクトに対する考えや想いを聞いた。

▲Photo by Tomomi Takano
2019年6月にドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアム  バックミンスター・フラー・ドームで開催された「Food Shaping Kyoto」の展示風景。

京都工芸繊維大学 KYOTO Design Labは、デザインと建築を柱とする領域横断型の教育研究拠点として2014年に設立されたプラットフォーム。企業や地域の組織、国内外の多彩な研究者とワークショップやリサーチを行い、イノベーションの社会実装に取り組んでいる。「Food Shaping Kyoto」は、2015年からリサーチやワークショップを重ね、その成果を社会に還元して問いたいという想いから、2019年6月にドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムで展覧会として発表したものだ。

▲Photo by Takuya Miyake
会場となったヴィトラ・デザイン・ミュージアム バックミンスター・フラー・ドーム

プロジェクトのベースになったのは、スイス・バーゼルでシャディ・ラーバランやマニュエル・ヘルツらが行っていたリサーチ研究だった。「スイスでは新しく建築を建てる前に、その土地のことを多角的な視点でリサーチし分析することを教わりました。われわれはその方法論に着目し、京都でそれを展開しようと考えたのです」と三宅は言う。

▲Photo by KYOTO Design Lab
KYOTO Design Labの教員、学生、シャディ・ラーバラン、マニュエル・ヘルツが共同で展覧会の企画を練った。

続けて、池側が語る。「誰もが知っている京都のイメージだけでなく、そのイメージを下支えしているものが周辺環境としてある。それらの関係性が京都にとってどういう意味をもつのか、具体的なリサーチによって探っていきました」。その切り口として食をテーマにおき、食によってどのように都市が形づくられてきたのかを探るべく、古くから町の人々の食を支えてきた錦市場を調査対象に選んだ。そこに何度も足を運び、生産から流通、消費、廃棄まで食の循環を店主にヒアリングし、普段はあまり見ることのない製造や加工を行うバックグヤードを見学したり、市場の構造を知るために設計図面を起こしたりした。このリサーチから展覧会の実現に至るまで、プロジェクトは京都錦市場商店街振興組合の多大な協力があったという。

▲Photo by Tomomi Takano

▲Photo by Tomomi Takano

▲Photo by Tomomi Takano
展覧会の会場風景。実際に錦市場で使用されている道具や、日本の食材の食品サンプルを展示した。

錦市場のリサーチを通して、京都の多様な側面が見えてきたと三宅は言う。「京野菜や鱧(はも)のように、京都で食べられてきたものは地域や土壌、季節、祭などと密接に関係していて、町の人々の生活や文化に色濃く反映していることがわかりました。また、京都で古くから行われてきた家庭への日常的な仕出しは、オーダーメードのフードデリバリーのようなもの。そうした過去のシステムから現在の一人住まいの高齢者やコロナ禍での生活のヒントになりそうな要素が得られるのではないかなど、食というテーマから過去、現在、未来と、壮大なスケールで都市を解読し考える機会が得られたと実感しています」。

▲Photo by Tomomi Takano
会場では錦市場と京都市中央卸売市場の様子を映像で見せた。写真は後者。

これらのリサーチ結果は、ドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムで展覧会として発表され、大きな反響を得た。だが、10日間だけの展覧会という短期間のものであることから、世界のプロの目できちんと評価を受けて実績を残したいという想いで、iFデザインアワードにエントリーしたという。食については、さらに多様な可能性が考えられる。KYOTO Design Labでは、今後も引き続き研究に取り組んでいきたいとのことだ。

▲左:京都工芸繊維大学 池側隆之 教授
 右:京都工芸繊維大学 三宅拓也 助教

千葉工業大学 × 未来ロボット技術研究センター(fuRo)
「生活や社会を豊かにする新しい乗り物」

3つ目の産学協同プロジェクトは、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(以下、「fuRo(フューロ)」)が開発した「CanguRo(カングーロ)」。人と乗り物の新しい関係を考えた、これからのAI時代の新しいパーソナルモビリティである。fuRoの所長、古田貴之に話を聞いた。

▲人に寄り添い、人の心もサポートするパーソナルモビリティ「CanguRo」。Photo by Yusuke Nishibe

fuRoでは、ロボット界屈指の技術者・研究者が集結し、人々の生活や社会を豊かにするためのロボット技術の開発・研究に日々尽力している。身近な製品では、パナソニック「RULO(ルーロ)」がある。

今回のプロジェクトのきっかけを古田はこう語る。「史上初の量産自動車『T型フォード』が生まれてから約120年が経ちますが、はたして乗り物はそれから本当の意味で進化したのだろうかと疑問に感じていました。これからのAI時代に相応しい新しい乗り物が必要ではないかと思ったのです」。

そして、開発されたのが、あるときはパートナーとして人に寄り添い、あるときは移動手段のための乗り物になる、かつての馬のような存在の「CanguRo」だ。相棒のように主人に寄り添い、fuRo独自のSLAM技術によって指定の場所まで迎えにきてくれたり、自動でトランスフォーム(自動変形)して身体の一部となって移動をサポートしたりする。本体に内蔵されたボディソニックスピーカーによって、ハートビートの鼓動で移動スピードも体感できる、まさに人機一体型の「RidRoid(ライドロイド:Rid=乗る、Roid=ロボット)」という、新しいカテゴリーの乗り物である。

▲Movie by Kaoru Imafuku

デザイン開発にあたっては、若者から高齢者まで誰もが欲しくなる・乗りたくなるものを目指した。「それを見た途端、思わず心が引き込まれて一瞬で魅了されてしまうような、『ハートを鷲づかみにするもの』です。デザインにおいては、意匠や技術はもとより、サービスや利用シーン、それがどういう未来をつくるかというブランドデザインまでを考えることが必要です」と古田は話す。

▲カオティックな生活空間で動くため、大型自動操縦車以上の高性能技術がこの小さなボディに搭載されている。Photo by Yusuke Nishibe

「CanguRo」はこれからの高齢化社会を考えた乗り物でもあるという。「例えば、高齢者は100メートル先のコンビニに行くのも難しかったりします。身体が不自由だとどんどん動かなくなり、心も病んでしまう。乗り物は不得意なことを補って身体機能を拡張してくれるもの。気軽に乗れて安全な乗り物があれば、行きたいところに行けるようになり、どんどん動きたくなってアクティブになり、心も元気になって社会に参加できるようになる。この世の中は、心と身体と社会の3つが結び付いて成り立っていて、どれが欠けてもいけない。それらがうまく回っていく、そういうライフスタイルの提案をしたかったのです。その先の未来とは、社会学者イヴァン・イリイチが唱える『コンヴィヴィアリティ(自立共生)』、つまり、色鮮やかにワイワイと皆がハッピーな状態の社会のことだと考えています」。

▲開発にはインダストリアルデザイナーの山中俊治も携わった。
Design by Shunji Yamanaka

iFデザインアワードにエントリーした理由は、「こういう技術、こういう物があるということを、ロボット界だけでなく、世界中の多くの人に知ってほしいと思ったからです。これを見た人たちから、さらなるアイデアを出してもらって、ともにより良い豊かな未来をつくっていきたい、共創していきたいというのが私の願いです」と古田は想いを語った。受賞詳細はこちらへ。

今後、この変形する搭乗型・知能ロボット「RidRoid」は、人工知能の進化に伴って、さらなる成長発展を遂げていくと古田は予想している。

▲千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 古田貴之

後編では、iFデザインアワードを受賞した、日本の美意識が宿るデザインを3つご紹介します。End

iFデザインアワード2021受賞結果

概要
iFデザインアワード2021は、プロダクト、コミュニケーション、パッケージ、サービスデザイン、建築、インテリア・内装、プロフェッショナルコンセプトに加えて、新たにUX(ユーザーエクスペリエンス)とUI(ユーザーインターフェース)が追加され、計9つの分野で募集を行った。
また、3月に行われた最終審査は、コロナウイルス感染拡大を受けて、オンラインでのデジタル審査となった。
エントリー数
9,509件/52カ国(2020年は7,298件)
審査員
21カ国から98名
応募分野
9分野(78カテゴリー)
受賞社総数
1,744社
ゴールドアワード
75点

iFデザインアワード2022の募集のお知らせ

登録日程
早期登録締切
2021年6月30日

一般登録締切
2021年10月15日

最終登録締切
2021年11月19日

選考日程
iFオンライン・プレセレクション
2022年1月10日~14日

プレセレクション選考結果
2022年1月20日

募集詳細
詳細は応募ガイドをご覧ください