社会とビジネスを前進させる UI UXデザインという視座
丸山 潤(ニジボックス)× 関 治之(コード・フォー・ジャパン)対談

DX時代の日本社会を前進させるアプローチとして重要になるのが、UI UXデザインの知見。そう語るのは、3,000名以上の規模に成長してきた知見共有コミュニティ「BUSINESS & CREATIVE」を主催するニジボックスの丸山 潤と、コード・フォー・ジャパンやデジタル庁で公共サービスの設計に携わる関 治之だ。今回は、二人の対話からこの新たな時代の流れを読み解くのに必要な視座を聞いた。

――UXの価値はみんなで考える

丸山 潤  私はウェブデザインやフロントエンド開発を経験した後、リクルートに入社し社内の新規事業推進を行う組織でUXデザインチームを率いていました。そのころは、「UXができれば新規事業はすべてうまくいく」という期待感がありました。ただ実際は、UXからフロントエンドの開発までを一貫してやらないと、結局はいいプロダクトになりません。UXの重要性をビジネスサイドとエンジニアサイドの双方が理解していないとうまく回らない、という状況を目にしてきました。

▲丸山 潤/ニジボックス執行役員 サービスプロデュース事業本部長
リクルート プロダクトデザイン室 デザインマネジメント部 デザインマネジメント統括グループに所属。
https://nijibox.jp

関 治之  すごくわかります。私たちは公共サービスの改善に取り組んでいますが、UXの専門家だけが頑張ってもうまくいかないことが多々あります。テクノロジードリブンで課題解決をしようといきなりシステムやツールをつくっても、なかなか使われません。全体をきちんと理解し、どのようにつなげていくかという視点が不可欠です。

▲関 治之/コード・フォー・ジャパン代表理事
2013年に渡米後、シビックテックの活動「コード・フォー・アメリカ」の日本版を始めた。
その他、デジタル庁プロジェクトマネージャー、神戸市チーフイノベーションオフィサーなどとして活躍。
https://www.code4japan.org

丸山  関さんの活動はすごいバイタリティがあると思って以前から拝見していました。例えば企業では、現場がデザインの重要性がわかっていても、経営に対してコスト感を含めた説明ができなくて悩んでいる人がたくさんいます。こういったハードルをどうやってクリアしてきたのか、そのヒントをお持ちでしょうか。

 ありがとうございます。私自身はエンジニアとして地理空間情報を活用したシステムを開発してきました。具体例としては、東日本大震災が起きたとき、オープンソースを使ってクラウドソーシング的に情報を集め、地図上にマッピングするなどの活動です。それが契機となって、テクノロジーを公共のフィールドに活用する仕事を始めるようになりました。それが「コード・フォー・ジャパン」という活動の原点です。そこからデジタル庁や神戸市での活動も加わって日々UXを考える必要に迫られるなか、コミュニティのような存在がすごく大事だと気づきました。

丸山  私たちニジボックスが運営する知見共有コミュニティ「BUSINESS & CREATIVE」は、2015年〜16年に運営していたUX特化型のコミュニティ「UX Sketch」に端を発するものです。名称を変えたのは、5年前に比べるとデザインの扱う範囲が広がり、もっと「総合的な理解」が必要な時代になったからです。「なぜビジネスにUIやUXのデザインが必要なのか」「どうビジネスと接続できるのか」ということを議論して、多くの人と共有できたらと思っています。

 行政の現場も厳しく、目に見えないものに対して、自治体はなかなか予算をつけたがらないです。企業でも公共でも、そこをきちんとブレイクスルーしなくてはいけなくて、概念レベルで理解してもらうことが本当に必要なプロセスです。こういった課題に対して、実践的な知恵が交換できることは重要です。

――真の顧客を理解できているのか?

丸山  海外におけるUXの現状を聞かせてもらえませんか。

 シビックセンタードデザイン、あるいはシチズンセンタードデザインという分野が米国で進んでいます。公共サービスというものはサービスの企画から設計、価値提供までのデリバリーチェーンが長いのが一般的です。基本的には、縦割りの構造になっているから、部門間で無駄な作業もたくさんあります。そういったところを最適化するためには、ユーザー中心に考えてサービス設計自体をやり直すことが必要です。

このプロセスにUXデザイナーが入って、業務改善を行う環境をつくるために、ニューヨークなどでは行政職員がサービスデザインを学んでいます。アプローチとしては、ペルソナをつくったり、ユーザー体験を言語化したりしています。それを実地でやって、いわゆるラーニングコミュニティをつくっています。日本でもこうしたアプローチが必要だと思います。

丸山  米国はそういう方法論をつくるのが上手なイメージがありますね。

 ガイドラインやプレイブックなどをつくるときにUXデザイナーが活躍しています。米国には、NPOの活動を支援する連邦政府独自の組織があるのですが、そこのアプローチですごいなと思ったのは、UXデザイナーが実際に生活保護受給者と同じ金額で生活をして、自ら共感プロセスを体験していたことです。組織として何が必要なのかをきちんとと理解しているのはさすがです。

丸山  そうした姿勢はビジネスの場面でも学ぶところがありますね。私たちの活動を「BUSINESS & CREATIVE」と名付けたのは、グラフィックデザインやUIデザインだけが「デザイン」ではないという想いからです。ビジネスが成功するためのデザインというのは、顧客をよく理解できる力だと思います。どんなプロジェクトであっても、顧客にインタビューして本質的な課題を見つけることが重要です。顧客の課題を解決できるデザインを作ることによって、実際に顧客に使ってもらえるプロダクトにすることができると考えています。

 同感です。サービスデザインの1サイクルを体験するのは、公共サービスでもビジネスでも、それを手がける人たちが実践したほうがいいです。米国での例のように、生活保護の金額で生活してみることまではしなくても、顧客観察は大事です。行政の場では、ユーザーテストという発想さえ抜け落ちてしまいがちなんです。

▲WEBのデザインやフロントエンド開発を中心とするニジボックスは、新たな時代の流れを読み解くべく「UI UXトップランナーの“最新動向”を知って理解する1 DAY」を開催コンセプトとした、⼤型デザインカンファレンス「UI UX Camp! presented by Business & Creative」を開催する。

――現状を変えようと考える人に

丸山  関さんから見て、理想のデザイナー像はどういうものになりますか。

 やはり「プロセスをどう変えるか」という視点を持って動けるデザイナーでしょうか。UXデザイナーを自認する人たちは、オンラインでのユーザー体験部分だけを頑張るのではなく、コンテンツが生まれる最初の工程にもきちんと手を突っ込める存在であってほしいです。

行政サービスのさまざまな使いにくさについて、よくUIの設計が語られるのですが、実は、そのもっと手前から課題が生まれています。そもそも制度自体がわかりにくいケースが多いです。プロセス全体を俯瞰して「これが最適な制度設計だ」と考えられる人は強いです。制度のスタート地点からユーザー中心でデザインされていたら、きっと社会全体が変わるでしょう。

プロセス全体を俯瞰してデザインできる人が増えてつながると、エンジニアの力がより発揮されます。そういうデザイナーがいたら、コード・フォー・ジャパンに来ていただいて案件をお手伝いいただければ嬉しいです(笑)。

丸山  私は、公共でもビジネスでも、課題発見能力がいちばん重要だと思います。これは、物事を改善するために必要な力です。また、日常的に問題意識を持って物事に接していかないと育たない力でもあります。何かを良くしていきたいという思いがあるからこそ、私たちはサービスをつくったり、デザインをしたりしています。

今回のカンファレンス「UI UX Camp!」を通じて、あらゆる職種の方々にビジネスシーンでのUI UXを生かすヒントをつかんでいただけたらと思っています。「この問題を解決したい」とか「現状をさらに良くしたい」と考えている人にぜひ参加してもらいたいです。End

▲写真:西田香織

「UI UX Camp! presented by Business & Creative」詳細

会期
2022年3月26日(土)10:30〜18:30
形式
YouTube Live配信
参加方法
https://nijibox.jp/cp/uiuxcamp/
まで申し込み

▲「UI UX Camp!」の登壇者ラインナップ。