HOMO FABER・ヴェネツィア国際民芸展——後編 深澤直人のインタビューとともに

後編では、キューレータの深澤直人氏のインタビューと、「12 Stone Garden」以外の展示を紹介する。前編はこちらから。

HOMO FABER・ヴェネツィア国際民芸展での深澤直人インタビュー


――今回の「HOMO FABER EVENT」は「工芸が導く人類の未来」というテーマで催されたわけですが、人間国宝の作品展示なども含め、イベントについてお聞かせください。

現在世界規模で大きな問題が発生していますが、こうした時期に、ものづくりに携わる人、工芸職人やクリエイター、デザインに関わる人達が、人類を救うというテーマに沿って作品を生み出したということ自体が尊敬に値することだと思います。

人を救おう、ものづくりによって未来を築こうとミケランジェロ財団が今回のイベントを開催したことはイタリアと日本にとっても素晴らしいことではないでしょうか。

――このように人間国宝の作品が一堂に集まるということは日本でもなかったことで、来場者たちもひじょうにそのレベルの高さに驚いているようです。

みなさん、作品の精度に驚いている様子です。フランスやイタリアでも職人を尊重するという考え方はありますが、日本が始めた「人間国宝」という制度は、今回のイベントを通じて世界にも影響を与えているようです。

――日本人にとってものづくりというものの根源にあるエネルギーとはどういったものとお考えですか。

責任……でしょうか。生きているという責任、誠実にものをつくるという責任。自分の表現というよりは、より良いものをつくるということは人間の重要な役割です。それができる人はその責任を果たせる人だと思います。

――イタリアと日本のデザインについての違いなどは感じられますか。

そんなに違いはないと思います。ただイタリアの場合、古いものの延長線上に新しいデザインがあるというように繋がっているのに対し、日本の場合は、もちろん工芸や民芸など古い良いものもあったのですが、戦後にデザインするという考え方が輸入され入ってきたことによってデザインという考え方がややこしくなっている部分がある。

イタリアのように古い歴史あるものを引き継いでいけば良かった部分もあるとは思いますが、近年日本の場合はデザインし過ぎている、やり過ぎているような印象を受けることもあります。

――深澤さんの作品は、無駄のない美しいプロダクトいう印象を受けます。デザインにはアイデアを足してつくるという考え方と、アイデアを引いてつくるという考え方が2つがあると思います。深澤さんの場合は後者に捉えられることが多いように思いますが、その点についてはどのように思われますか。

人間の行為というのは、実はあまり考えていないものです。言い方を換えれば、考えなくてもできる部分がある。例えば歩くことは考えなくても自然にできることで、元々そういう機能を持っている。足元が悪い場所、砂利の上を歩くとき、階段を降りるときにも、間違えて階段を踏み外そうとはしないわけで、あえてその適正に応じて考えなくても別の歩き方ができる。その適応というのは、突き詰めると生きるということにつながる。

美しいもの、美しくないものがあった場合、無意識的に人間は美しいものを選ぶ適正がある。そう考えると何か意識をしてこうしようと思うのではなく、適正に合わせて自然に思えることを探す、人間が思う共通意識に働きかける、というデザインの考え方を意識しています。

――デザイナーとして、デザインをすることについて、何か影響を受けたものがあれば教えてください。

影響を受けた本として、昔のことになりますが高浜虚子の「俳句への道」という1冊があります。俳句というのは自分の思いを伝えようとして詠むわけではなく、例えば葉っぱが落ちたその瞬間を詠まなくていけない。悲しいと思って欲しいから葉っぱが落ちたと言えばそれは嘘になる。自然を詠むということはそういうことで、そのなかに自分たちの心が反映するということを客観写生(高浜虚子の造語)と呼ぶというような内容なんですが、そこから客観的に心の豊かさを表現するということを学びました。

最初の頃はデザイナーとして自分を表現することがデザインだと思っていましたが、この本に出会ってからは、多くの人が共感できるもの、そういったものを探そうと思い始めるきっかけになりました。それ以来自分がデザインしてものをつくるというよりは、人々に共感してもらえるプロダクトづくりをしようという考え方に変わっていきました。

それでは、ここから、今回のメイン展示「12 Stone Garden」以外の展示も見て回ろう。

「川内倫子によるThe Ateliers of Wander」


会場中心部に位置する見事なヒノキの樹が聳えるルネッサンス様式の回廊では写真家川内倫子の作品が展示された。


「12 Stone Garden」に出展した人間国宝の工房を訪れ、何世紀にもわたって受け継がれていく伝統の技を、透明感のある写真によって表現。職人たちの手先にフォーカスした写真からは、職人たちのモノづくりに対する揺るぎのない熱意と作品に対する誇りを垣間見ることができた。

ブースで伝統の技を体験する



「HOMO FABER EVENT」では、アート、デザイン、陶磁器、民芸品、フラワーアレンジメント、ティールーム、車や船に至るまで400を超える展示作品と350を超えるデザイナーと職人が参加している。彫刻、楽器、紙工作などの各ブースでは実際に匠と来場者たちが触れ合うことができる機会が生まれ、伝統の技を身近に体験することができる。


万年筆のメーカー「Mont Blanc(モンブラン)」の制作現場。細かい部品の説明から、万年筆を使用した似顔絵のインスタレーションも行われていた。


服飾の展示ではエルメス、シャネル、カルティエといった世界トップクラスのブランド製品の裏に隠された技術の高さを紹介。現代工芸がいかにアートやデザインと密接に結びつき発展を遂げてきたかを感じることができる。


国宝の風神雷神図屛風を文字盤としたスイスの時計メーカーVACHERON CONSTANTIN(ヴァシュロン・コンスタンタン)の作品。日本の伝統がヨーロッパのモノづくり影響を与えたことが伺える。


インテリアデザイナー、舞台美術家シルヴァン・ロカがデザインした「Beauty Blossoming」の会場ではヴェネツィアングラスのメーカーと世界各国のフラワーアーティストのコラボレーション作品を展示。日本人ではミラノ在住の川本 諭が展示を行った。


演出家、ビジュアルアーティストとして知られるロバート・ウイルソンは1960年代に作られたスイミングプールを舞台装置へと転換。プッチーニのオペラ「蝶々夫人」に代表されるような日本から影響を受けた舞台美術をフューチャーさせる空間をつくり上げた。


「Next of Europe」の会場で展示を行っていたデンマーク出身の「GERNER JAHNCKE」の作品。化学着色料を一切使用せず世界各国の土を水で溶かして着色している。シンプルな作品ではあるが、原始的な発想に新たな可能性を感じさせる。

今回のイベントでは人間の手から生み出される工芸、アート、デザインというステージのなかに、世代を繋ぎ、技を継承していくという人類の叡智が凝縮されているということを改めて感じさせてくれた。ものをつくるという人類の情熱は、きっと我々を明るい未来へと誘う英知となるだろうと感じさせるイベントであった。
(写真・文/佐武辰之佑)End
HOMO FABER EVENT ホモ・ファーベル日本語サイト→https://www.homofaberevent.com/japan