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7時間前

ロンドンという街は中心部に大きな公園を擁していることで知られている。ハイドパークやリージェントパークを歩くと、大樹の緑の積み重なりに、市民が大都市の中の緑を、昔から大切に育んできたのだということがわかる。
2025年秋、ロンドンは市内にある緑の面積をもう少し増やすことに成功した。

©Hufton+Crow
ヒートアイランド現象の緩和やCO2排出量の削減といった持続可能な環境共生社会の実現のためにいまや世界のあらゆる都市でさまざまな取り組みが行われている。とりわけコロナ禍のロックダウン時に大気汚染が大幅に改善したパリでは、アンヌ・イダルゴ市長の15分圏都市構想が推進され、ほぼパリ全域を網羅する自転車専用道路が誕生した。それだけなく、大胆にも中心部の車道からクルマが締め出され、緑化が進行している。
これは大気浄化の点では大きな成果を上げているが、実際のところ運搬用の車両にまで交通規制がかかることは、たっぷりとモータリゼーションの恩恵に浴してしまった都会人にとってはなかなか辛いところがあるようで、モンマルトルなどでは逆に住民の反対運動なども起こっていると聞く。
マスタープランナーでランドスケープアーキテクトであるジョン・マカスラン+パートナーズ(John McAslan + Partners)と、やはりランドスケープアーキテクトで園芸デザインを手がけたアンディ・スタージョン・デザイン(Andy Sturgeon Design)が連携して変えたロンドンのスローン・ストリートの姿はそれに比べるとずいぶんと控えめだ。車道を削減し、歩道部分を20%増幅してそこに緑を増やすというシンプルなもの。しかし、そのことによる効果は思いのほか大きい。都市緑化係数が17%増え、生物多様性も175%促進されたという。

2025年夏。工事が終わった直後のスローン・ストリート

植樹前の2023年のスローン・ストリート。iStock.com/Alena Kravchenko
地下鉄のスローン・ストリート駅からナイツブリッジ駅までを南北に結ぶ1kmの長さのスローン・ストリートは、ボンド・ストリートと並ぶエルメス、プラダ、ブルガリ、ディオール、ルイ・ヴィトン、カルティエなどが軒を連なるブランド街だ。

彼らはこの通りの歩道を増幅し、100本以上のライム、ジューンベリー、金木犀の木を植樹した。また植樹と並行して、60基以上のプランターに気候変動に強い低木、花、観賞用多年草を厳選し、年間を通し季節の色を吟味した多様な植栽を展開することにした。花崗岩でできた花壇の縁はそのまま腰掛けることができるアウトドアファニチャーの役割を果たし、車道と歩道の間の緩衝ともなっている。

植樹だけでなく、横断歩道の数を増やし、駐車・荷卸し箇所をわかりやすくシルバーグレイの石で再整備したため、路上駐車の数は大幅に減少した。街灯も近隣にあるアーツアンドクラフト様式のマスターピースであるホーリー・トリニティ教会からヒントを得た、複雑なディテールの鋳鉄性の2段重ねのデザインに刷新し、LEDに変えて夜間でも明るい通りにした。
このような小さな変更を積みかさねた結果、歩道は歩くスペースとしてだけでなく、カフェや屋外イベントの場としても使われるようになり、通りでの人々の滞在時間は大幅に延長され、ショップに入る人の数も増加している。

また通りの変革は地上だけでなく地下にも及んでいる。実は4,600万ポンド(約95億円)もの巨額な予算の大部分はその地下に使われている。歴史ある都市ならではのこの通りの地下には、数百もの石炭貯蔵庫と19世紀のバゼルゲット下水道が隠されているのだが、それらを整備し、この地域のデジタル接続性を向上させる大規模な地下インフラが新設された。

そんなわけで、この計画は道ゆく人たちだけでなく、住民やブランドショップからも好評を得ている。
80年代にスローンレンジャーなる言葉を生み出し、故ダイアナ妃やミック・ジャガーが闊歩していたこの通り、またあらためて注目を浴びる場となりそうだ。(文/AXIS辻村亮子)













